利益相反取引の承認議事録の記載事項と承認機関
利益相反取引承認議事録、取締役利益相反取引議事録、自己取引承認議事録、取締役会利益相反議事録、株主総会利益相反議事録 とも呼ばれます。
利益相反取引議事録は、取締役と会社の直接取引や、会社が取締役の債務を保証するような間接取引の承認を残す社内文書です。承認機関は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会です。承認内容は、取引の効力と取締役の責任判断に影響します。
| 書面の要否 | 承認自体の特定書面は法定なし |
|---|---|
| 承認機関 | 取締役会設置会社は取締役会・他は株主総会 |
| 対象取引 | 直接取引と間接取引 |
| 議決制限 | 取締役会では利害関係取締役は議決不可 |
| 保存期間 | 議事録は本店に10年間備置き |
| 後日報告 | 取締役会設置会社では取引後報告 |
最終確認日:
どんなときに必要か
取締役が自己又は第三者のためにする会社との取引と、会社が取締役の債務を保証するなど利益が相反する取引で使います(会社法356条1項2号・3号)。取締役への貸付け、資産の売買、取締役が代表を兼ねる別会社との取引が典型です。
書面にする必要はあるか
承認自体に、特定の題名の書面は法律上要りません。承認した機関の議事録(株主総会議事録又は取締役会議事録)を作成します(会社法318条1項・369条3項)。
必ず入れる事項
承認機関
定款と登記で取締役会設置会社かを確かめ、承認した機関を議事録の表題と本文で特定します(会社法356条1項・365条1項)。
取引類型
直接取引か間接取引かを分けます(会社法356条1項2号・3号)。類型が曖昧だと、承認対象と責任推定の範囲が定まりません。
重要な事実
価格、利率、期間、担保、保証の極度額を具体化します。取締役側が得る利益も、開示する重要な事実として示します(会社法356条1項)。
利害関係取締役
取締役会で承認する場合は、特別の利害関係を有する取締役の氏名を記載します。議事録の法定記載事項です(会社法施行規則101条3項5号)。
議決の母数
取締役会では、議決に加われる取締役を母数にして、定足数と賛成数を数えます(会社法369条1項)。
賛否と異議
取締役会の決議に参加し、議事録に異議をとどめない取締役は、決議に賛成したものと推定されます(会社法369条5項)。反対や異議を述べた取締役は、氏名と発言の要領を残します。
取引後報告
取締役会設置会社では、取引をした取締役が取引後遅滞なく重要な事実を取締役会へ報告します(会社法365条2項)。
備置き管理
株主総会議事録は株主総会の日から、取締役会議事録は取締役会の日から、10年間本店に備え置きます(会社法318条2項・371条1項)。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
承認機関を取り違える処理です。取締役会設置会社で株主総会だけ、取締役会を置かない会社で取締役会名義にすると、承認を欠く扱いになり得ます(会社法356条1項・365条1項)。
利益相反取引の当事者を、取締役会の出席数や賛成数に算入する誤りです。当事者を数えると、定足数と可決要件を満たしたかの判断が崩れます。
承認前に取引を実行し、後から議事録の日付を戻す処理です。承認を受けた直接取引または間接取引でなければ、民法108条の適用除外は働きません(会社法356条2項)。
内容を検討せず賛成し、異議も残さない扱いです。決議に参加して異議をとどめない取締役は賛成と推定され、会社に損害が生じると任務懈怠も推定されます(会社法369条5項・423条3項)。監査等委員会設置会社で、監査等委員でない取締役が監査等委員会の承認を受けたときは、この推定は働きません。
承認議事録があれば責任を負わないという理解です。自己のために直接取引をした取締役は、帰責事由がないことを理由に責任を免れられず、責任の一部免除の規定も適用されません(会社法428条1項・2項)。
今後の取締役との取引を包括承認するとだけ書く処理です。取引ごとに重要な事実を開示して承認を受けるため、相手方、取引の種類、上限額、期間がないと範囲を示せません(会社法356条1項)。条件が変わったときは、改めて承認を得るかを検討します。
取締役会設置会社で、承認後の報告を落とす処理です。報告は承認とは別の義務で、承認を受けていても省けません。報告を怠った取締役は、100万円以下の過料の対象です。
作成の流れ
- 1
類型を分ける
予定取引が直接取引か間接取引かを整理します(会社法356条1項2号・3号)。誰に利益が移り、会社がどのリスクを負うかを金額で示します。
- 2
機関を決める
定款と登記事項証明書で、取締役会設置会社かを見ます。その結果で承認する機関と、作る議事録の種類が決まります。
- 3
事実を書き出す
相手方、目的物、金額、単価、利率、期間、担保、会社が受ける対価、取締役側が得る利益を書き出します。保証では極度額も書きます。承認の前に、これらの重要な事実を開示します(会社法356条1項)。
- 4
利害者を外す
取締役会では、当事者の取締役を議決から外し、出席者数、議決に加われる母数、賛成数を分けて記録します(会社法369条1項・2項)。当事者が議長なら、議長を交代させる運用が一般的です。招集通知は当事者の取締役にも発します。
- 5
議事録を作る
取締役会で承認したときは取締役会議事録を作り、書面なら出席した取締役と監査役が署名または記名押印します(会社法369条3項)。株主総会で承認したときは株主総会議事録を作ります。
- 6
実行後に報告する
取締役会設置会社では、取引後遅滞なく、取引をした取締役が取締役会へ重要な事実を報告し、その概要を議事録に残します。条件が承認の範囲を超えたときは、改めて承認を得るかを検討します。
この書式だけでは足りない場面
登記が動く場合の窓口は法務局です。税務の取扱いは所轄税務署が窓口です。商業・法人登記の申請の代理を他人の依頼を受けて業として行えるのは、司法書士・司法書士法人と弁護士・弁護士法人に限られます。
よくある質問
- 株主総会で承認するとき、当事者の取締役も議決権を行使できますか。
- 株主であれば行使できます。その議決権の行使で著しく不当な決議がされたときは、決議取消しの訴えの対象です(会社法831条1項3号)。
- 当事者の取締役は取締役会で議決できますか。
- 議決に加われません。定足数と賛成数は、議決に加われる取締役だけを母数に数えます(会社法369条1項・2項)。
- 承認があれば取締役の責任は消えますか。
- 消えません。損害が生じると、利益が相反する取締役、取引を決めた取締役、承認決議に賛成した取締役は任務を怠ったと推定されます(会社法423条3項)。
- 取締役会を書面決議にできますか。
- 定款の定めが要ります。議決に加われる取締役全員の書面等による同意が必要で、監査役設置会社では監査役が異議を述べると使えません(会社法370条)。
- この議事録は登記申請に使いますか。
- 承認自体は登記事項ではありません。別の登記の申請で承認を証する書面が要るときに添付します。
出典
最終確認日: 2026-09-26
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