採用内定通知書
内定通知書、採用内定通知、採用通知書、内定通知 とも呼ばれます。
採用内定通知書は、選考を通過した応募者に採用を決めたことを伝える書面です。最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日(いわゆる大日本印刷事件)は、判示の事実関係のもとで、企業の求人募集に対する応募は労働契約の申込みであり、これに対する採用内定通知はその申込みに対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって解約権を留保した労働契約が成立したと認めるのが相当だとしています。単なるお知らせではなく、契約が動き出す場面の書面だという理解が出発点になります。
最終確認日:
どんなときに必要か
選考を終えて採用を決め、その旨を応募者に伝える段階で作ります。新卒採用では内々定や内定式の前後に、中途採用では入社日・配属・賃金を確定させるために交付されます。募集や職業紹介の段階では職業安定法5条の3第1項による労働条件の明示が必要で、その内容を変更・特定・削除・追加して労働契約を結ぼうとするときは同条3項の明示が必要になります。内定を伝える場面はこれらの明示と重なりやすいため、記載事項を整理してから交付します。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はなく、証拠目的の書面です。労働契約法6条は、労働者が使用されて労働し使用者がこれに対して賃金を支払うことについて労働者及び使用者が合意することによって労働契約が成立すると定めており、書面がなくても合意は成立しえます(民法623条も同じ考え方です)。ただし、この場面で行う労働条件の明示は方法まで法定されています。職業安定法5条の3第4項を受けた職業安定法施行規則4条の2第4項は明示の方法を書面の交付とし、本人が希望した場合に限りファクシミリや電子メール等を認めています(同項ただし書に緊急の必要がある場合の例外あり)。慣行ではなく義務です。
必ず入れる事項
採用する旨と対象者の氏名
最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日は、判示の事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込みであり、これに対する企業の採用内定通知はその承諾にあたるとしました。誰に対する何の通知かが曖昧だと、契約が成立したのかどうかという入口から争いになります。
就労を開始する予定日(入社予定日)
同判決は、就労の始期を大学卒業の直後とする労働契約の成立を認めています。始期の記載がないと、いつから就労義務と賃金支払義務が生じるのかを判断する手がかりが残りません。
労働契約の期間に関する事項
職業安定法施行規則4条の2第3項2号の明示事項です。同項ただし書が条件を付けているのは2号の3(有期の更新基準)と8号(派遣)だけで、2号は期間の定めの有無を問わない無条件の明示事項です。期間の定めがないならその旨を、あるなら始期と終期を書きます。
従事すべき業務の内容と変更の範囲
職業安定法施行規則4条の2第3項1号は、従事すべき業務の内容に「従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む。」と定めています。将来の配置転換の可能性を書かないと、入社直後に認識のずれが表面化します。
就業の場所と変更の範囲
職業安定法施行規則4条の2第3項3号が就業の場所について「就業の場所の変更の範囲を含む。」と定めています。転勤があり得るのに勤務地だけを書くと、募集時の説明との食い違いを後から説明しづらくなります。
始業終業時刻・所定外労働の有無・休憩・休日
職業安定法施行規則4条の2第3項4号は「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項」を明示事項としています。とくに所定外労働の有無は入社後の不満に直結しやすく、内定の段階で書き残しておくと「聞いていない」という食い違いを減らせます。
賃金の額(臨時に支払われる賃金・賞与等を除く)
職業安定法施行規則4条の2第3項5号は「賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則第8条各号に掲げる賃金を除く。)の額に関する事項」と定め、賞与等を括弧書きで明示事項から除いています。除かれている部分まで確定額として書き込むと、その額が労働契約の内容として合意されたものと評価される可能性があるとされています。
試みの使用期間(試用期間)に関する事項
職業安定法施行規則4条の2第3項2号の2の明示事項です。同条6項は、試用期間中と期間終了後で条件が異なる場合はそれぞれの内容を示して明示しなければならないと定めており、片方だけの記載では足りません。
社会保険等の適用・雇用主の名称・受動喫煙対策
職業安定法施行規則4条の2第3項6号(健康保険・厚生年金・労働者災害補償保険・雇用保険の適用)・7号(労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称)・9号(就業の場所における受動喫煙を防止するための措置)の明示事項です。採用窓口とグループ内の雇用主が異なる場合、雇用しようとする者の名称を落とすと、誰と契約するのかが書面から定まりません。
内定承諾書・誓約書の返送期限と提出書類の案内
最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日は、企業の採用内定通知が誓約書の提出とあいまって、解約権を留保した労働契約を成立させたとしています。内定承諾書や誓約書は成立の場面に関わる書類なので、返送期限と提出物を書いておくと、回収が滞ったときに状況を整理しやすくなります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
「内定の取消しは当社の判断による」とだけ書く留保条項。最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日は、大学卒業予定者の事案について、留保解約権に基づく採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、取消しが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られるとしています。会社の裁量で自由に取り消せると読める書き方は、この枠組みと整合しません。
月例賃金だけでなく賞与や各種手当まで確定額で書き込む例。職業安定法施行規則4条の2第3項5号の「賃金の額に関する事項」は、括弧書きで臨時に支払われる賃金・賞与等を除いています。除外されている部分まで確定額として通知すると、その額が労働契約の内容として合意されたものと評価される可能性があるとされ、後の減額をめぐる争いにつながりやすいと指摘されています。
内定を辞退した場合の違約金や損害賠償額を定める条項。労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と定めています。内定通知書や同封の誓約書に辞退時の違約金額を書き込む雛形が流通していますが、この条文に正面から触れる書き方です。
募集広告や面接での説明と違う条件を内定通知書で黙って差し替える例。職業安定法5条の3第3項は、明示した労働条件を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合に、変更する内容等を明示しなければならないと定めています。労働基準法15条2項は、同条1項により労働契約の締結に際して明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者が即時に労働契約を解除できると定めた規定であり、募集広告の内容と内定条件との違いを直接対象とする規定ではありません。
内定通知書を出したから労働条件通知書は不要と考える運用。労働基準法15条1項は労働契約の締結に際して労働条件を明示するよう求めます。労働基準法施行規則5条3項は同条1項1号から4号まで(昇給に関する事項を除く。)を法15条1項後段の厚生労働省令で定める事項とし、同条4項がその明示の方法を書面の交付(労働者が希望した場合はファクシミリ又は電子メール等の送信)としています。内定通知書だけでは記載事項が足りないことがあります。
新規学卒者の内定取消しを社内手続だけで完結できる前提の雛形。職業安定法施行規則35条2項は、新規学卒者を雇い入れようとする者について、同項2号(内定期間中の取消し・撤回)や3号(内定期間の延長)に該当する場合、あらかじめ公共職業安定所及び施設の長(業務分担学校長及び職業安定法33条の2第1項の規定により届出をして職業紹介事業を行う者に限る。)に人材開発統括官が定める様式により通知するものとしています。
作成の流れ
- 1
募集時に明示した条件を集めて並べ直す
求人票、募集広告、職業紹介事業者に渡した求人条件を手元に集め、職業安定法5条の3第1項で明示した内容を一覧にします。職業安定法施行規則4条の2第7項は、明示した従事すべき業務の内容等に関する記録を、その募集や職業紹介が終了する日までの間保存しなければならないと定め、括弧書きで、募集等が終了する日以降に労働契約を締結しようとする者については労働契約を締結する日までとしています。まずこの記録の確認が出発点です。
- 2
募集時の条件と内定時の条件を突き合わせる
募集時の条件と、実際に内定を出そうとしている条件を1項目ずつ比べます。職業安定法施行規則4条の2第1項は、明示した内容の範囲内で特定する場合、削除する場合、追加する場合を厚生労働省令で定める場合として挙げ、同条2項でその特定・削除・追加した内容自体を明示事項としています。差分があるときは、その差分を書き出します。
- 3
記載事項をチェックリストで埋める
職業安定法施行規則4条の2第3項各号(業務の内容と変更の範囲、契約期間、試みの使用期間、就業の場所と変更の範囲、始業終業・所定外労働の有無・休憩・休日、賃金の額、社会保険等の適用、雇用しようとする者の名称、受動喫煙防止措置)を並べ、空欄を洗い出します。有期の更新基準は有期契約の場合、派遣として雇用する旨は派遣の場合に限られます。
- 4
試用期間の扱いを分けて書く
職業安定法施行規則4条の2第6項は、試みの使用期間中の従事すべき業務の内容等と、その期間が終了した後の内容等とが異なる場合には、それぞれを示して明示しなければならないと定めています。試用期間中だけ賃金や勤務地が違う運用にしているなら、期間中と期間後の2列に分けて記載し、どちらの条件がいつから適用されるかを明示します。
- 5
交付方法と記録の残し方を決める
職業安定法施行規則4条の2第4項は、明示の方法を書面の交付とし、書面の交付を受けるべき者が希望した場合に限り、ファクシミリを利用してする送信、または受信者が記録を出力して書面を作成できる電子メール等の送信によることができるとしています。同項ただし書は、職業紹介の実施について緊急の必要があるためあらかじめこれらの方法によることができない場合において、明示事項をあらかじめこれらの方法以外の方法により明示したときは、この限りでないと定めています。メールで送るなら、本人が希望したことを確認した記録もあわせて残します。
- 6
労働条件通知書とセットで準備する
労働契約の締結に際しては、労働基準法15条1項により労働条件の明示が必要です。内定の時点で労働契約が成立していると評価される場合には、その時点が「労働契約の締結に際し」に当たりうるため、明示を入社日まで先送りできる前提で組み立てないようにします。明示事項は労働基準法施行規則5条1項各号で、同条3項は同条1項1号から4号まで(昇給に関する事項を除く。)を書面の交付が必要な事項とし、同条4項がその方法を定めています。労働条件通知書を別に用意し、記載の食い違いを遅くとも就労の開始前までに突き合わせます。
専門家に相談したほうがよい場面
当サイトは資格者を擁しておらず、書類の作成代行や個別事案の判断はできません。次の場面では、行動に移す前に弁護士(採用ルールや就業規則の設計は社会保険労務士)にご相談ください。内定を取り消す、または入社日を延期する必要が生じたとき。募集時に示した賃金や勤務地と違う条件で内定を出したいとき。応募者から内定取消しの撤回や補償を求められたとき。新卒者の内定について学校や公共職業安定所から照会を受けたとき。内定を取り消された、募集時と違う条件を示された、辞退に違約金を求められたという応募者の側も同じです。通知や返事を出した後では選べる手段が狭まります。
よくある質問
- 内定通知書は必ず書面で出さないといけませんか。
- 内定通知書そのものに法定の書面要件はありません。労働契約法6条は、労働者が使用されて労働し使用者が賃金を支払うことについて双方が合意することにより労働契約が成立すると定めており、口頭やメールでも合意は成立しえます。ただし、職業安定法5条の3第4項を受けた職業安定法施行規則4条の2第4項は、明示の方法を書面の交付とし、書面の交付を受けるべき者が希望した場合に限りファクシミリや電子メール等によることができるとしています(同項ただし書は職業紹介の実施について緊急の必要がある場合の例外を定めています)。実務では書面で交付し、控えを残す例が多くなっています。
- 内定を出したあとに取り消すことはできますか。
- 個別の事案で取り消せるかどうかは事実関係によって判断が分かれるため、このページでは断定できません。枠組みだけをお伝えすると、最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日は、留保解約権に基づく採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、取消しが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られるとしています。実行する前に弁護士にご相談ください。
- 新卒者の内定を取り消すとき、社外への連絡は必要ですか。
- 職業安定法施行規則35条2項は、新規学卒者を雇い入れようとする者について、同項各号のいずれかに該当する場合には、あらかじめ公共職業安定所及び施設の長(業務分担学校長及び職業安定法33条の2第1項の規定により届出をして職業紹介事業を行う者に限る。)に人材開発統括官が定める様式により通知するものとしています。同項2号は、卒業後に労働させ賃金を支払う旨を約し又は通知した後、就業を開始することを予定する日までの間にこれを取り消し又は撤回するときを挙げ、3号は内定期間を延長しようとするときを挙げています。通知はそこで終わりません。同規則35条3項は、公共職業安定所長が通知の内容を都道府県労働局長を経て厚生労働大臣に報告しなければならないと定め、同規則17条の4第1項は、報告された取消し・撤回の内容が厚生労働大臣の定める場合に該当するときは公表することができるとしています。対象者の責めに帰すべき理由による場合と、倒産により翌年度の募集・採用が行われないことが確実な場合は除かれます。手続の詳細は管轄のハローワークにご確認ください。
- 内々定と内定は法的に違うものですか。
- 法令に「内々定」の定義はありません。最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日は、応募・入社試験の合格・採用内定通知・誓約書の提出・近況報告のやり取りなどを挙げたうえで、判示の事実関係のもとにおいては労働契約が成立したものと認めるのが相当だとしています。つまり呼び方ではなく、実際にどのようなやり取りがあったかで評価される枠組みです。内々定と呼んでいるから契約は成立していない、と当然にいえるわけではない点にご注意ください。
出典
- e-Gov法令検索 労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)
- e-Gov法令検索 職業安定法(昭和二十二年法律第百四十一号)
- e-Gov法令検索 職業安定法施行規則(昭和二十二年労働省令第十二号)
- e-Gov法令検索 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)
- e-Gov法令検索 労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)
- e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)
- 裁判所 裁判例検索 最高裁判所第二小法廷判決 昭和54年7月20日(昭和52(オ)94・民集第33巻5号582頁)
- 厚生労働省 令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます
- 厚生労働省 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります
最終確認日: 2026-08-07
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