入社誓約書の解読ガイド

入社時誓約書、入社に関する誓約書、誓約書(入社時提出)、就業誓約書、入社誓約書兼同意書 とも呼ばれます。

入社誓約書は、これから入社する人が、就業規則を守ること、業務上知った秘密を漏らさないことなどを会社に約束する書面です。法律で作成が義務づけられた書類ではなく、後から「聞いていない」という食い違いが起きたときに、何を約束したのかを示す証拠として使われます。ただし、誓約書に書きさえすれば何でも約束させられるわけではありません。労働基準法や労働契約法が明文で禁じている内容の条項は、本人の署名があっても効力を生じないとされています。

最終確認日:

どんなときに必要か

採用が決まり、実際に働き始める前後に、会社が本人から提出を受ける形で使われます。会社から本人へ労働条件を伝える「労働条件通知書」とは向きが逆で、入社誓約書は本人から会社への約束です。労働基準法15条1項の労働条件明示義務は誓約書では果たせないため、通知書と誓約書は分けて用意します。身元保証書や秘密保持誓約書を別に取る場合は、内容の重複と矛盾がないかをあわせて確認します。

書面にする必要はあるか

法定の書面要件はなく、証拠目的の書面です。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、入社誓約書について特別の定めを置いた法令はありません。他方で、使用者が労働契約の締結に際して労働条件を明示する義務(労働基準法15条1項)は、誓約書の有無と関係なく残ります。誓約書はこの義務を代替しません。

必ず入れる事項

  • 誓約の対象となる就業規則を特定して明記する

    労働契約法7条は、合理的な労働条件を定めた就業規則を使用者が周知させていた場合に、労働契約の内容はその就業規則によるものとすると定めています。どの規則を指すのかが曖昧だと、誓約の中身そのものが特定できなくなります。

  • 就業規則を法定の方法で周知していること(掲示・備付け、書面の交付など)

    労働基準法106条1項は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所への掲示や備付け、書面の交付その他の厚生労働省令で定める方法で周知させなければならないと定めています。方法はこのいずれかで足ります。周知がなければ、就業規則の内容が労働契約の内容になるという労働契約法7条の枠組みは働きません。

  • 約束させる義務を項目ごとに具体的に列挙する

    労働契約法3条4項の信義誠実の原則は一般的な原則であり、それだけで個別の義務の中身が決まるわけではありません。「誠実に勤務する」だけの記載では、何を守らせたかったのかを後から示せません。

  • 損害賠償の記載は金額を定めない形にする

    労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。金額や月数を書いた時点で、その定めは同条に反します。

  • 就業規則の基準を下回る条件を書かないこと

    労働契約法12条は、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効とし、無効となった部分は就業規則で定める基準によると定めています。誓約書も労働契約の一部です。

  • 提出日・入社日・本人の署名または記名押印

    法定の書面要件がない分、この書面の価値は「いつ、誰が、何に同意したか」を示せる点にあります。日付と本人の署名または記名押印を欠くと、証拠としての機能がほとんど残りません。

  • 労働条件通知書を別に用意して交付すること

    労働基準法15条1項は賃金、労働時間その他の労働条件の明示を義務づけ、同項後段を受けた同法施行規則5条4項本文は方法を書面の交付と定めています。労働者が希望した場合は同項1号のファクシミリを利用してする送信、2号の電子メール等の送信(出力して書面を作成できるものに限る)も可能です。誓約書はこの義務を果たしません。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 「損害を与えたときは金○円を支払う」「一律に給与○か月分を賠償する」のように、あらかじめ金額や月数を決めた条項です。労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と明文で禁じており、本人が署名していてもこの定めは同条に反します。

  • 「入社後○年以内に退職したら研修費用○円を返す」「途中で退職したときは違約金を支払う」のように、退職そのものに金銭の支払を結び付ける条項です。労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めており、違約金は損害が生じたかどうかを問わない点で、金額を決めた賠償の予定とは別の枝にあたります。研修費用の返還条項については、実質が金銭消費貸借にあたるかどうかで判断が分かれるとされていますので、返還を求める場面では弁護士にご相談ください。

  • 「業務上生じた損害は全額賠償する」型の包括条項です。実際に生じた損害の賠償や求償であっても無制限に認められるわけではなく、茨城石炭商事事件・最高裁判所第一小法廷判決 昭和51年7月8日は、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において賠償又は求償を請求できると述べています。同判決は個別の事実関係を踏まえた判断です。

  • 就業規則にない義務を誓約書だけで新たに課そうとする条項です。労働契約法7条は、周知された就業規則の合理的な労働条件が労働契約の内容になるとする規定で、就業規則にない事項はこの規定では契約内容になりません。就業規則の内容と異なる労働条件を合意した部分については、同条ただし書が、同法12条に該当する場合を除きこの限りでないと定めています。定めのない事項は同法6条の個別の合意の問題となり、裏づけのない事項ほど争われやすいとされています。

  • 就業規則の基準を下回る労働条件を含む条項です。労働契約法12条は「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする」と定め、無効となった部分は就業規則で定める基準によるとしています。誓約書という形をとっても結論は変わりません。

  • 「いかなる懲戒処分にも異議を申し立てない」型の包括的な条項です。労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とすると定めています。懲戒権の根拠が別にあることが前提で、処分の当否はこの枠組みで判断されます。

  • 同じ用紙に身元保証人の署名欄を設けながら、極度額(保証の上限額)を書いていない形。民法446条2項は「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」と定め、同法465条の2第2項は「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」としています。誓約書と兼ねる場合でも保証の部分は保証契約です。身元保証は損害額があらかじめ定まらない不特定の債務の保証として、民法465条の2第1項の個人根保証契約(根保証契約であって保証人が法人でないもの)に当たると解されており、その立場では、2020年4月1日以後に締結したものについて極度額の欄がなければ、その部分の効力が否定されうることになります。

作成の流れ

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    就業規則の有無と周知の状況を確かめる

    常時10人以上の労働者を使用する場合、労働基準法89条により就業規則の作成と行政官庁への届出が必要です。就業規則があるなら、労働基準法106条1項の方法で実際に周知されているかを確認します。入社誓約書は就業規則を前提に組み立てる書面なので、この確認を飛ばすと後に続く条項がすべて宙に浮きます。

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    約束させたい事項を書き出して棚卸しする

    服務規律、秘密の取扱い、会社備品の管理、住所変更などの届出事項といった、実際に守ってほしい事項を一つずつ書き出します。そのうえで、すでに就業規則に書かれているものと、書かれていないものに分けます。就業規則にない事項は、誓約書に足す前に就業規則の側を整えるかどうかを検討します。

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    賠償・違約金に関する記載を点検する

    金額、月数、倍率など、あらかじめ数字を決めた賠償の定めがないかを確認します。労働基準法16条が明文で禁じているためです。実際に生じた損害の賠償についても判例上の限界があるとされているので、包括的な「全額賠償」の記載を残すかどうかも、あわせて見直します。

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    労働条件通知書と役割を分ける

    会社から本人へ労働条件を明示する義務は労働基準法15条1項にあり、誓約書とは書面の向きが逆です。誓約書に労働条件を書き込むと、通知書との間で食い違いが生じたときに争いの種になります。誓約書は本人からの約束、通知書は会社からの明示、と切り分けて用意します。

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    日付と署名を整え、控えを本人に渡す

    法定の書面要件がない書面なので、価値は証拠としての機能にあります。提出日、入社日、本人の署名または記名押印をそろえます。あわせて、誓約書の控えと、根拠となる就業規則をいつでも見られる方法を本人に案内しておくと、後の認識の食い違いを減らせます。

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    判断が分かれる条項は専門家に確認する

    誓約書を根拠に責任を追及する場面や、退職後まで義務を及ぼす場面は、条項の書きぶりだけで結論が決まりません。就業規則の作成・変更や届出、労務管理の設計は社会保険労務士が扱う分野です。個別の紛争や責任追及の可否は弁護士が扱う分野なので、早い段階で相談先を分けて考えます。

専門家に相談したほうがよい場面

次の場面は、条項の書き方だけでは結論が決まりません。①誓約書を根拠に従業員へ損害賠償や求償を請求しようとしているとき、②誓約違反を理由に懲戒処分や解雇を検討しているとき、③秘密保持や競業避止を退職後まで及ぼしたいとき、④署名を求められた側で賠償や返還の条項に納得できないとき。①〜④は弁護士へご相談ください。就業規則の作成・変更や届出、労務管理の整備は社会保険労務士が扱う分野です。当サイトは条項の一般的な意味をご説明するもので、書類の作成代行や個別事案の法律相談は行いません。

よくある質問

入社誓約書は必ず作らなければいけませんか。
法律で作成が義務づけられた書面ではありません。民法522条2項は、契約の成立には法令に特別の定めがある場合を除き書面の作成その他の方式を要しないと定めており、入社誓約書について特別の定めを置いた法令はないためです。実務で使われるのは、就業規則を読んだこと、守ることを本人が確認したという証拠を残すためです。なお、会社から本人への労働条件の明示(労働基準法15条1項)は別に法律上の義務なので、誓約書の有無とは関係なく必要になります。
「会社に損害を与えたら全額弁償する」と書いてもよいですか。
金額をあらかじめ決める書き方は、労働基準法16条が「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と明文で禁じています。金額を書かない「全額」という包括的な書き方も、そのまま通るわけではありません。茨城石炭商事事件・最高裁判所第一小法廷判決 昭和51年7月8日は、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において賠償又は求償を請求できると述べています。実際にどこまで請求できるかは個別の事情によるため、弁護士にご相談ください。
就業規則がない会社でも、誓約書だけで義務を課せますか。
労働契約法7条は、合理的な労働条件が定められている就業規則を使用者が労働者に周知させていた場合に、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるものとすると定めた規定です。就業規則がない、または周知されていない状態では、この枠組みは働きません。もっとも、労働契約法6条は、労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立すると定めています。誓約書の記載も、労働者と使用者が合意した個別の労働条件として扱われる場合があります。なお、常時10人以上の労働者を使用する場合は、労働基準法89条により就業規則の作成と届出そのものが義務になります。
入社誓約書と労働条件通知書は同じものですか。
別のものです。入社誓約書は本人から会社への約束を書いた書面で、労働条件通知書は会社から本人へ労働条件を明示するための書面です。労働基準法15条1項は、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めています。誓約書を交わしただけではこの義務を果たしたことにならないため、二つは分けて用意します。

出典

最終確認日: 2026-08-07

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