身元保証書の解読ガイド|極度額(民法465条の2)と期間の上限

身元保証契約書、身元保証人、身元引受書、身元保証書の極度額、入社時の身元保証 とも呼ばれます。

身元保証書は、採用した従業員(被用者)の行為によって会社が受けた損害を、親族などの身元保証人が賠償すると約束する書面です。保証契約ですので、民法446条2項により「書面でしなければ、その効力を生じない」とされています。さらに、あらかじめ金額の定まらない不特定の債務を保証するものとして個人根保証契約に当たると解されており、その場合は民法465条の2第2項により「極度額」(責任の上限額)を定めなければ効力を生じません。古い雛形にはこの欄がないものが少なくありません。

身元保証書の解読ガイド|極度額(民法465条の2)と期間の上限の要点。一般的な情報提供であり、個別の事案についての法律判断ではありません。
書面の要否法定の書面要件あり。民法446条2項により、書面でなければ効力を生じません。
極度額個人根保証にあたると解する立場では、民法465条の2第2項により金額の明記がないと効力を生じません。
保証期間定めるなら5年以内(身元保証ニ関スル法律2条1項)。定めなければ3年、商工業見習者は5年(同法1条)。
通知と解除身元保証ニ関スル法律3条の通知と4条の解除権を奪う特約は、同法6条により無効です。
つまずく点2020年4月1日より前に作った古い様式には、極度額の欄がないものがあります。

最終確認日: 一般的な情報提供であり、個別の事案についての法律判断ではありません。

どんなときに必要か

新しく人を雇い入れるときに、本人とは別に親族などへ署名を求める場面で使われます。金銭を扱う職種や、顧客の資産・個人情報に触れる職種で求められることが多い書面です。提出を求めるかどうかは会社の判断で、提出させることを義務づける法律は本ページの調査では見当たりませんでした。2020年4月1日より前に作った社内様式をそのまま使い回している場合は、極度額の欄がないまま運用されている可能性があるため、様式を見直す場面でもあります。

書面にする必要はあるか

法定の書面要件があります。民法446条2項は「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」と定め、同条3項は、内容を記録した電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなすとしています。極度額の定めについても民法465条の2第3項が446条2項・3項を準用していますので、口約束で金額を決めても足りないことになります。

必ず入れる事項

身元保証書でまず確認するのは極度額の欄です。民法465条の2第2項は、個人根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じないと定めており、身元保証がこれにあたると解する立場では、この欄を欠く書面は効力を否定されうることになります。以下は、これに続けて書面で特定しておく事項です。

  • 極度額(責任の上限額)の定め

    民法465条の2第2項は、個人根保証契約は極度額を定めなければ「その効力を生じない」と定めています。身元保証がこれに当たると解する立場では、この欄がない書面は効力を否定されうる最大の弱点になります。

  • 保証の対象となる損害の範囲

    何についての損害かが書かれていないと、保証人の責任の輪郭が定まりません。身元保証ニ関スル法律1条は、期間を定めない身元保証契約について、名称のいかんを問わず「被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル」ものとして存続期間を定めています。同法が対象とする損害の範囲を書面で特定しておく必要があります。

  • 保証期間(定めるなら5年以内)

    身元保証ニ関スル法律2条1項により期間は5年を超えられず、長い定めは5年に短縮されます。期間を書かない場合は同法1条により成立の日から3年、商工業見習者は5年となりますので、意図した期間と食い違います。

  • 被用者と使用者の氏名・住所

    誰の行為について誰に対して責任を負うのかが特定できないと、保証の対象そのものが定まりません。同じ様式を複数の従業員に使い回している職場ほど、後から書面の対応関係が分からなくなります。

  • 身元保証人の氏名・住所・署名

    誰が保証したのかを書面で特定するために必要です。あわせて、身元保証ニ関スル法律3条が使用者に義務づけている通知を届ける宛先にもなりますので、連絡先が古いままだと通知を行えません。

  • 保証人が個人か法人かが分かる記載

    民法465条の2第1項は個人根保証契約を「保証人が法人でないもの」と定義しています。極度額の定めが要るかどうかがここで分かれますので、保証人の属性が読み取れる書面にしておく必要があります。

  • 契約を締結した年月日の記載

    改正民法の附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による」と定めています。極度額のルールが及ぶかは締結日で分かれるため、日付が判断の起点になります。

無効・効力が否定されやすい条項

争点は極度額・保証期間・通知と解除の3か所に集中します。極度額の欄がない古い様式、5年を超える期間の定め(身元保証ニ関スル法律2条1項により5年に短縮)、同法3条の通知や4条の解除を奪う特約(同法6条により無効)が代表例です。

  • 極度額の欄がない雛形。民法465条の2第2項は「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めています。身元保証契約がこれに当たると解する立場では、2020年4月1日以後に締結したものは効力を否定されうることになります。ネット上で配布されている古い様式にはこの欄がないものが少なくありません。

  • 極度額を「会社が被った損害額を限度とする」「相当額」などと書く例。法務省のパンフレットは、極度額について「「○○円」などと明瞭に定めなければなりません」としています。金額が読み取れない書き方では、極度額を定めたことにならないおそれがあります。

  • 「保証期間は10年とする」など5年を超える定め。身元保証ニ関スル法律2条1項は「身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス」と定めており、10年と書いてもその期間は5年に短縮されます。

  • 「期間の定めなく効力を有する」「自動的に更新され継続する」など、責任が無期限に続くように読める書きぶり。身元保証ニ関スル法律1条は期間を定めない身元保証契約の効力を成立の日から3年(商工業見習者は5年)とし、2条2項は更新を認めつつ「其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ」としています。

  • 「使用者は保証人に通知しない」「保証人は解除できない」といった特約。身元保証ニ関スル法律6条は「本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス」と定めており、同法3条の通知や4条の解除を奪う条項は無効です。6条が無効とするのは本法の規定に反し、かつ身元保証人に不利益な特約に限られますが、通知義務や解除権を奪う条項はその両方に当たります。

  • 「会社に生じた損害の全額を無条件に賠償する」旨の条項。身元保証ニ関スル法律5条は、裁判所が保証人の賠償責任と金額を定めるにあたり、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、保証をするに至った事由、被用者の任務や身上の変化その他一切の事情を斟酌すると定めています。

作成の流れ

作成は締結日の確認から始めます。改正民法の附則21条1項により、極度額のルールが及ぶかどうかは締結日で分かれるためです。以降は、保証人の属性、極度額、期間、通知と解除の条項の順に整えます。

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    いつ締結した契約かを確かめる

    改正民法の附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による」と定めています。保証に関する改正規定の施行日は2020年(令和2年)4月1日です。これから結ぶものは当然に改正後のルールの下にありますので、まずこの日を基準に、手元の様式が改正後に作られたものかを確認します。

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    保証人が個人かどうかを確認する

    民法465条の2第1項は、個人根保証契約を「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの」と定義しています。身元保証は損害額があらかじめ定まらない不特定の債務の保証ですので、保証人が個人であればこの定義に当たると解されています。

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    極度額を金額で書き入れる

    民法465条の2第2項は極度額を定めなければ効力を生じないとし、同条3項が446条2項・3項を準用していますので、書面または電磁的記録で定めることになります。法務省のパンフレットは「「○○円」などと明瞭に定めなければなりません」「この極度額は書面等により当事者間の合意で定める必要があります」としています。

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    期間の欄を身元保証法の枠に合わせる

    身元保証ニ関スル法律2条1項により期間の上限は5年で、これを超える定めは5年に短縮されます。期間を書かない場合は同法1条により成立の日から3年、商工業見習者の身元保証契約は5年です。更新する場合も同法2条2項により更新の時から5年が上限ですので、長期間を一度にまとめて設定することはできません。

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    通知と解除の条項を読み直す

    身元保証ニ関スル法律3条は、被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があり保証人の責任を生じさせるおそれを知ったときと、被用者の任務または任地を変更して保証人の責任を加重し、または監督を困難にするときに、使用者が遅滞なく通知することを義務づけています。4条は、通知を受けた保証人が将来に向かって解除できるとし、保証人が自らこれらの事実を知ったときも同じであると定めています。これらを制限する条項は6条により無効です。

専門家に相談したほうがよい場面

実際に従業員の行為で損害が生じ、身元保証人に請求するかどうかを検討する段階になったら、その前に弁護士にご相談ください。身元保証ニ関スル法律5条は、使用者の監督上の過失の有無や被用者の身上の変化など一切の事情を裁判所が斟酌すると定めており、請求できる額は書面の極度額だけでは決まりません。保証人の側で、通知を受けないまま任地や職務が変わっていた、解除を申し出たいという場合も同じです。当サイトは資格者を擁しておらず、書面の作成代行や個別の可否判断は行いません。

よくある質問

2020年3月に結んだ身元保証書に極度額が書かれていません。無効になりますか。
改正民法の附則21条1項は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による」と定めています。保証に関する改正規定の施行日は2020年4月1日です。改正前の民法465条の2が極度額を求めていたのは、主債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引による債務を含む「貸金等根保証契約」に限られていましたので、極度額の欄がないこと自体で効力が否定されるわけではありません。ただし身元保証ニ関スル法律1条により、期間の定めがなければ成立の日から3年(商工業見習者は5年)、2条1項により定めても5年が上限ですので、更新がなければ保証期間は既に満了しており、その後の行為には及びません。争いになりそうなときは弁護士にご相談ください。
極度額はいくらにすればよいですか。
法律は具体的な金額を定めていません。民法465条の2第2項が求めているのは極度額を定めること自体であり、法務省のパンフレットも「「○○円」などと明瞭に定めなければなりません」としているだけです。金額は当事者間の合意で決めるものですので、当サイトから相場や目安をお示しすることはできません。なお身元保証ニ関スル法律5条は、裁判所が賠償責任と金額を定めるにあたり使用者の監督上の過失の有無その他一切の事情を斟酌すると定めていますので、書いた額がそのまま認められるとは限りません。
期間を更新するとき、あらためて極度額を定める必要がありますか。
この点は条文からは確定できませんでした。身元保証ニ関スル法律2条2項は更新を認めており、その期間は更新の時から5年を超えられません。他方、改正民法の附則21条1項が基準にしているのは「締結」であり、更新がこれに当たるかどうかは条文の文言からは読み取れませんでした。当サイトでは断定を避けます。更新の場面で判断が必要なときは弁護士にご確認ください。
身元保証書は必ず取り交わさなければいけませんか。
提出を求めることを使用者に義務づける法律は、本ページの調査では見当たりませんでした。もっとも、いったん身元保証契約を結ぶのであればそれは保証契約ですので、民法446条2項により書面(または同条3項の電磁的記録)が必要になります。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」としていますが、保証契約は同項のいう「法令に特別の定めがある場合」に当たりますので、口約束では効力を生じません。
身元保証人が亡くなった後も、相続人に保証を続けてもらえますか。
民法465条の4第1項3号は、主たる債務者又は保証人が死亡したときは、個人根保証契約における主たる債務の元本は確定すると定めています。身元保証が個人根保証にあたると解する立場では、保証人が亡くなった時点で元本が確定し、それ以後に生じた損害には保証が及ばないことになります。確定した時点までに生じていた債務が相続との関係でどう扱われるかは別の問題ですので、実際に請求を検討する場面では弁護士にご確認ください。

出典

最終確認日: 2026-08-07

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