秘密保持誓約書(従業員向け)
秘密保持契約書(従業員)、守秘義務誓約書、機密保持誓約書、NDA(従業員向け)、秘密保持に関する誓約書とも呼ばれます。
秘密保持誓約書は、従業員が業務上知った情報を外部へ漏らさず、退職後も持ち出さないと約束する書面です。法定の作成義務はなく、合意と管理状況を示す証拠になります。不正競争防止法の営業秘密では、秘密として管理されている状態が問題になります。
最終確認日:
どんなときに必要か
入社・採用時、在職中の異動・出向・プロジェクト参加時、退職・契約終了時に取り交わすのが一般的です。扱う情報の種類や範囲が変わる場面では、対象範囲を明確にしやすくなります。個人データを扱う従業員には、個人情報保護法上の監督とも関わります。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はなく、証拠目的の書面です。民法は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約成立に方式を求めていません。営業秘密では、秘密管理意思が従業員に明確に示され、認識できる管理措置が問題になります。
記載が必要な事項
秘密情報の範囲
対象範囲は、双方の認識が一致する程度に特定します。範囲が示されないと、従業員が何を秘密として扱うのか認識しにくくなります。
持出し等の取扱い
持出し、複製、返還、廃棄、消去の扱いを書き分けます。「秘密を守る」だけでは、自宅への持帰りや個人メール送信が対象外だと争われやすくなります。
義務の期間
在職中と退職後を分けて定めます。在職中だけを対象と読める書き方では、退職後の使用や開示について、この書面を根拠にしにくくなります。
個人データの扱い
個人情報取扱事業者は、個人データを扱う従業者に対し、安全管理が図られるよう必要かつ適切な監督を行います。顧客情報を扱う場合は、営業秘密と個人データを分けて定めます。
他社秘密の不持込み
転職者の入社時には、前職で課された秘密保持義務の内容を採用過程で確認する扱いが示されています。他社の重要情報を意図せず侵害する事態を避けるための確認です。
署名等と日付
法定の書面要件がない証拠目的の書面では、誰がいつ何に同意したかの特定が中心です。日付がないと、対象業務や対象時点を後から示しにくくなります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
対象を「業務上知り得た一切の情報」とだけ書く型です。秘密管理意思が従業員に認識できる形で示されず、営業秘密の主張が弱くなります。
労働契約の不履行について、違約金や損害賠償額をあらかじめ定める型です。使用者はこの契約をしてはならず、実損害の賠償請求とは別に扱われます(労働基準法16条)。
代償措置のない広範な競業避止条項を足す型です。企業の利益、従業員の地位、地域、期間、行為範囲、代償措置の6項目が判断材料になります。
署名だけ集め、ファイルやデータに秘密表示やアクセス制限がない状態です。誓約書は管理措置の一つで、実際の管理と合わせて見られます。
中途採用者に、前職で得た情報の活用を求める条項です。営業秘密の不正取得や不正開示が介在した情報の取得・使用・開示は不正競争に含まれます。
就業規則に懲戒の定めがないのに、誓約書だけで懲戒処分を前提にする型です。常時十人以上の労働者を使用する使用者は、制裁の種類と程度を就業規則に記載します(労働基準法89条)。
作成の流れ
- 1
情報を分類する
守る情報を棚卸しします。営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性の三つを満たす情報です。管理措置の程度は、企業規模、業態、職務、情報の性質などで変わります。
- 2
範囲を決める
対象範囲は、双方の認識が一致する程度に特定します。「何に関するデータ」など、情報カテゴリーで示す方法も挙げられています。
- 3
取扱いを分ける
持出禁止、持出しを認める条件、返還、廃棄、消去を分けて書きます。誰に、いつ、どの方法で返すか又は消すかを定めると、退職時の確認に使いやすくなります。
- 4
金額条項を外す
違約金や損害賠償額をあらかじめ定める条項を外します。労働基準法の基準に達しない労働条件を定めた部分は無効です(労働基準法13条、労働基準法16条)。
- 5
場面を決める
入社・採用時、退職・契約終了時、在職中の異動・出向・プロジェクト参加時など、取り交わす場面を決めます。署名済み書面の保管者と保管場所も決めます。
- 6
管理と合わせる
書面の対象になる書類やデータについて、秘密表示、保管場所、アクセス権を見直します。書面と実態がずれると、秘密管理の説明が弱くなります。
この書式だけでは足りない場面
経済産業省の公開資料は、営業秘密の管理措置や秘密保持契約の整理に使われます。就業規則や社内規程の作成・変更の相談は、社会保険労務士の業務範囲に含まれます。
よくある質問
- 秘密保持誓約書がないと、営業秘密として守られないのですか。
- 誓約書の有無自体は要件ではありません。秘密として管理され、有用で、公然と知られていない情報かが問題です。
- 入社時に署名していれば、退職時は不要ですか。
- 入社時だけで終わりとは限りません。在職中や退職時の方が、対象情報を具体化しやすい場面があります。
- 違反したら刑事罰はありますか。
- 要件を満たす営業秘密の取得、使用、開示では、裁判所から10年以下の拘禁刑、2000万円以下の罰金、またはその両方に処される可能性があります。
- 競業避止義務も同じ書面に入れてよいですか。
- 同じ書面に入れる場合でも、秘密保持とは別に扱います。6項目の判断材料が示されています。
出典
- e-Gov法令検索 不正競争防止法
- e-Gov法令検索 労働基準法
- e-Gov法令検索 民法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- e-Gov法令検索 労働契約法
- 経済産業省「営業秘密管理指針」(令和7年3月31日最終改訂)
- 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(2024年2月改訂)
- 個人情報保護委員会「法令・ガイドライン等」
最終確認日: 2026-09-20