内定承諾書|法的な位置づけと無効になりやすい条項
入社承諾書、内定誓約書、入社意思確認書、採用内定承諾書 とも呼ばれます。
内定承諾書は、採用内定を受けた人が「入社します」という意思を書面で示すものです。入社承諾書、内定誓約書とも呼ばれます。契約の成立に書面はいらず(民法522条2項)、労働契約は労働者と使用者の合意で成立します(労働契約法6条)。ただし大日本印刷事件(最高裁第二小法廷判決 昭和54年7月20日・民集33巻5号582頁)では、採用内定の通知と誓約書の提出とがあいまって、就労の始期を大学卒業直後とする解約権留保付労働契約が成立したと判断されました。証拠としての意味は小さくありません。
最終確認日:
どんなときに必要か
新卒採用や中途採用で内定が出たあと、入社日までに間が空くときに、入社の意思を確かめる目的で提出を求められます。内定通知書とセットで運用されることが多く、会社にとっては採用計画の根拠に、内定者にとっては内定の内容を書面で残す機会になります。提出を求められたら、まず「入社の意思を示すだけの書面」なのか、「誓約や保証といった義務を負う条項が同じ用紙に入っている」のかを見分けるところから始めます。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はなく、証拠目的の書面です。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定め、労働契約法6条も合意で労働契約が成立するとしています。労働基準法15条1項後段を受けた同法施行規則5条3項が明示すべき事項(5条1項1号〜4号。昇給に関する事項を除く)を、同条4項本文がその方法=書面の交付を定めています。同項ただし書により、労働者が希望した場合は、同項1号のファクシミリを利用してする送信、または同項2号の電子メール等の送信(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)によることもできます。出力して書面を作成できるものに限るという限定は2号の括弧書きで、1号のファクシミリには付いていません。承諾書はこの明示の代わりになりません。
必ず入れる事項
どの内定に対する承諾かの特定
会社名・募集職種・内定通知の日付をひもづけていないと、どの条件を前提に入社の意思を示したのかを後から確認できません。条件の食い違いが起きたときに、書面が証拠として働かなくなります。
入社予定日(就労を始める時期)
大日本印刷事件では、就労の始期を大学卒業直後とする労働契約の成立が認められました。始期が書面にないと、いつから働く義務と賃金を支払う義務が生じるのかがあいまいになります。
提出年月日と本人の署名または記名押印
民法97条1項は、意思表示は相手方に到達した時から効力を生じると定めています。日付と署名がないと、いつ誰が承諾したのかを示せず、提出期限が設けられている場合の判断もできません。
労働条件を記した書面を受け取った旨の確認
労働基準法15条1項の明示は別の書面で行われます。受領を確認しておくと、明示された条件が事実と相違した場合に同条2項の即時解除を主張する前提を整理しやすくなります。
入社までに提出する書類と、その期限
卒業証明書などの提出物を列挙しておくと、内定者側の準備が漏れません。提出物に身元保証書が含まれる場合は、保証契約として民法446条2項などの別の要件がかかる点にも気づけます。
承諾の意思表示と誓約事項の切り分け
秘密保持・競業避止・違約金といった条項が承諾書に紛れていることがあります。承諾の意思表示と義務の引受けは性質が違うため、どちらに署名しているのかを分けて読む必要があります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
「内定を辞退した場合は違約金○万円を支払う」型の条項。労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めており、あらかじめ金額を決めておく形はこの禁止に正面から触れます。同法13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」と定めているため、禁止に反する部分の効力は否定されると説明されています。
「いかなる理由があっても内定を辞退しない」と、辞退そのものを禁じる条項。期間の定めのない雇用について民法627条1項は「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定めているため、辞退を一切封じる定めは効力が乏しいとされています。
「会社に損害を与えたときは全額を賠償する」型の包括的な賠償条項。金額をあらかじめ決める形は労働基準法16条に触れます。金額を定めない実損の賠償についても、茨城石炭商事事件(最高裁第一小法廷判決 昭和51年7月8日)は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で賠償や求償を請求できるとしています。
身元保証の条項を承諾書のなかに置いてしまう形。保証契約は民法446条2項により「書面でしなければ、その効力を生じない」とされ、個人根保証契約に当たる場合は同法465条の2第2項により「極度額を定めなければ、その効力を生じない」とされています。身元保証は不特定の債務の保証として個人根保証に当たると解されており、極度額欄のない用紙に混ぜる運用は要件を欠くおそれがあります。
賃金や就業場所が空欄のまま承諾書だけ先に出させる運用。労働基準法15条1項後段を受けた同法施行規則5条3項は、契約期間、有期労働契約の更新基準、就業の場所と従事すべき業務(変更の範囲を含む)、労働時間、賃金(昇給に関する事項を除く)、退職に関する事項を明示事項とし、4項本文はその方法を書面の交付としています(同項ただし書により、労働者が希望した場合はファクシミリや電子メール等の送信も可)。承諾書だけでは明示を果たしたことになりません。
作成の流れ
- 1
何に対する承諾かを確かめる
内定通知書、労働条件を記した書面、承諾書の3点を並べ、会社名・職種・入社予定日・賃金が一致しているかを確認します。労働契約は労働契約法6条により労働者と使用者の合意で成立するため、書面に書かれた条件と口頭で聞いた条件が食い違ったまま署名すると、あとから争点になります。
- 2
労働条件の書面が交付されているか確認する
労働基準法15条1項後段を受けた同法施行規則5条3項は、契約期間、有期労働契約の更新基準、就業の場所と従事すべき業務(変更の範囲を含む)、始業終業の時刻や休日、賃金(昇給に関する事項を除く)、退職に関する事項を明示すべき事項と定め、同条4項本文はその方法を書面の交付としています。労働者が希望した場合は、同項ただし書によりファクシミリや電子メール等の送信も可能です(電子メール等は、労働者が記録を出力して書面を作成できるものに限られます)。承諾書しか渡されていない場合は、労働条件を記した書面の交付を会社に確認します。
- 3
承諾以外の条項が入っていないか読む
違約金や損害賠償額の予定、身元保証、秘密保持、競業避止といった条項が同じ用紙に入っていないかを確認します。違約金の定めは労働基準法16条が禁じており、身元保証には民法446条2項の書面要件がかかり、個人根保証契約に当たると解される場合には同法465条の2第2項の極度額の定めも必要とされています。納得できない条項があれば、署名の前に会社へ確認します。
- 4
記入して、期限までに届くようにする
提出年月日、氏名、住所、入社予定日など指定された欄を埋め、署名または記名押印をします。民法97条1項は意思表示が相手方に到達した時から効力を生じると定めているため、提出期限があるときは投函日ではなく到達日を基準に、余裕をもって送ります。郵送なら発送の記録が残る方法が無難です。
- 5
控えを保管する
提出前に全ページの写しを取り、内定通知書や労働条件を記した書面とまとめて保管します。入社後に条件の相違があった場合や、内定取消しの通知を受けた場合に、当時どの条件を前提に承諾したのかを示す資料になります。電子データで提出したときも、送信済みの控えと日時が分かる記録を残します。
専門家に相談したほうがよい場面
当サイトは書面の作成代行や、個別の事案についての法律判断は行いません。次のような場面では、署名の前に弁護士へご相談ください。承諾書に違約金や損害賠償額、身元保証の条項が入っている場合。賃金や就業場所を記した書面が交付されないまま承諾だけ求められている場合。すでに他社を断ったあとで条件を変更された、または内定取消しを告げられた場合。辞退を申し出たところ、損害賠償を請求すると言われた場合です。労働条件の明示や就業規則の整備そのものについては、社会保険労務士も相談先になります。
よくある質問
- 内定承諾書を出したら、もう辞退できないのですか。
- 辞退できないと定める条項の効力は乏しいとされています。期間の定めのない雇用について民法627条1項は「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定め、雇用は解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了するとしています。もっとも採用内定の法的性質は事案ごとに検討されるとされており、辞退の可否や時期による影響をここで断定することはできません。損害賠償を示唆されている場合は弁護士にご相談ください。
- 承諾書に「辞退したら違約金を支払う」と書かれていました。
- 労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。さらに同法13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする」と定めています。あらかじめ金額を決めておく違約金の定めは、この禁止に正面から触れます。署名を求められている段階であれば、その条項について会社に確認することをおすすめします。
- 内定承諾書と労働条件通知書は同じものですか。
- 別のものです。内定承諾書は入社の意思を示す書面で、法定の様式はありません。労働条件を明示する書面は、労働基準法15条1項後段と同法施行規則5条3項・4項に基づいて会社が交付するもので、契約期間、有期労働契約の更新基準(更新の可能性がある有期契約の場合に限ります)、就業の場所と従事すべき業務(変更の範囲を含む)、労働時間、賃金(昇給に関する事項を除く)、退職に関する事項が対象です。労働者が希望した場合は、同規則5条4項ただし書によりファクシミリや電子メール等の送信も可能です(電子メール等は、労働者が記録を出力して書面を作成できるものに限られます)。承諾書に労働条件が要約されていても、それだけで明示義務を果たしたことにはなりません。
- メールやウェブフォームで承諾しても大丈夫ですか。
- 民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めているため、承諾それ自体に書面は要りません。ただし民法97条1項により意思表示は相手方に到達した時から効力を生じますので、送信の記録と会社からの受領連絡を残しておくことが実務上は重要です。なお身元保証を兼ねる書面であれば、民法446条2項・3項の要件を別に検討する必要があります。
出典
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 労働契約法(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール」
最終確認日: 2026-08-07
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