給与明細書(賃金支払明細書)の記載事項ガイド
賃金支払明細書、給料明細書、給与支払明細書、給与明細、賃金明細書 とも呼ばれます。
給与明細書(賃金支払明細書)は、使用者が労働者に給与等を支払う都度、支給額・控除額・差引支給額などを示して交付する書面です。所得税法231条1項により、給与等の支払をする者には支払明細書の交付義務があり、記載事項は所得税法施行規則100条1項が定めています。同項は「その支払の際、その支払を受ける者に交付しなければならない。」と交付の時期まで定めており、後日まとめて渡す運用は想定されていません。本ガイドは、この書面に一般的に記載される項目とその法的な位置づけを解説するものであり、個別の給与計算や税額計算そのものを行うものではありません。
最終確認日:
どんなときに必要か
労働者に給与等を支払うたびに交付が必要になります。所得税法231条1項は、居住者に給与等を支払う者に対し、その都度、支払明細書の交付を義務づけており、月例給与だけでなく賞与や退職手当等の支払時も対象です。また労働基準法24条2項は、賃金を毎月一回以上、一定の期日を定めて支払うことを求めており、明細書の交付タイミングもこの支払期日と連動します。もっとも同項ただし書は、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金を毎月払いの原則から除いており、賞与の明細は支給の都度となります。
書面にする必要はあるか
この書面は証拠目的の任意書類ではなく、法定の交付義務書面です。所得税法231条1項は、給与等の支払をする者について「その支払を受ける者に交付しなければならない。」と定めています。同条2項は労働者の承諾を得た電磁的方法による提供も認め、その場合は同条3項により支払明細書を交付したものとみなされますが、労働者から書面での交付を求められた場合には書面で交付する必要があります。この承諾は所得税法施行令356条1項により、あらかじめ用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面または電磁的方法で得る必要があります。労働基準法108条に基づき使用者が調製し、同法109条に基づき保存する賃金台帳とは、交付先も根拠条文も異なる別個の書面です。
必ず入れる事項
支給年月日・給与計算対象期間
労働基準法24条2項は、賃金を毎月一回以上、一定の期日を定めて支払うことを求めています。労働基準法施行規則54条1項3号も賃金台帳の記入事項として賃金計算期間を掲げており、明細書に支給年月日と対象期間を明記することで、この支払期日の規律が守られているかを労働者が確認できます。
支給額の内訳(基本給・諸手当等)
労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めています。労働基準法施行規則54条1項7号は賃金台帳の記入事項として「基本給、手当その他賃金の種類毎にその額」を掲げており、明細書でも手当を項目ごとに分けて記載することで、支給総額の算定過程を労働者が確認できます。
控除項目とその金額(社会保険料・税金等)
労働基準法24条1項はただし書で、法令に別段の定めがある場合または労使協定がある場合に限り、賃金の一部控除を認めています。加えて健康保険法167条3項と厚生年金保険法84条3項は、保険料を控除したときは「保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない」と定め、労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条1項後段も「労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない」としています。控除欄を項目ごとに分けて記載することが、これらの通知の基礎になります。
労働日数・労働時間の内訳
労働基準法108条に基づき使用者が調製する賃金台帳には、労働基準法施行規則54条1項4号・5号により労働日数と労働時間数の記入が求められます。明細書に同様の情報を記載することで、支給額の算定根拠を労働者と共有できます。なお労働基準法施行規則54条は、労働基準法41条各号のいずれかに該当する労働者について労働時間数の記入を要しないとしています。
時間外・休日・深夜の労働時間数と割増賃金額
労働基準法施行規則54条1項6号は、賃金台帳に延長時間数・休日労働時間数・深夜労働時間数を記入することを求めています。明細書でもこの三区分を分けて示すと、労働基準法37条1項を受けた政令(平成6年政令第5号)が定める最低の割増率——時間外は二割五分、休日は三割五分——で計算されているか、一箇月について六十時間を超えた時間外労働の部分が労働基準法37条1項ただし書の五割以上の率で計算されているか、深夜労働が労働基準法37条4項の二割五分以上の率で計算されているかを、労働者が区分ごとに検証できます。
差引支給額(手取り額)
支給額から控除額を差し引いた最終的な受取額です。労働基準法施行規則54条1項8号は「法第二十四条第一項の規定によつて賃金の一部を控除した場合には、その額」を賃金台帳へ記入するよう求めており、明細書でも控除額と差引支給額を分けて示すことで、全額払いの原則に照らして控除後の金額が適正に算定されているかを労働者が確認できます。
源泉徴収税額・年末調整による還付額
所得税法施行規則100条1項は、支払明細書の記載事項として給与等の金額(1号)、源泉徴収された所得税の額(2号)、所得税法191条の規定により還付した金額(3号)を掲げています。年末調整で過納額を還付した月は、その額を明細書に示すことがこの記載事項に対応します。
有給休暇の取得日数・残日数(任意記載が多い)
労働基準法39条1項は、要件を満たす労働者に年次有給休暇を与える義務を使用者に課しています。さらに労働基準法39条7項は、付与日数が十労働日以上の労働者について基準日から一年以内に五日を時季を定めて与えることを義務づけており、取得状況を明細書等に記載する実務は、この履行状況を労使双方が把握する助けになります。
発行者(使用者)の名称と労働者の氏名
所得税法231条1項は、給与等の支払をする者に支払明細書の交付を義務づけており、発行者名を明記することは誰がこの交付義務を負っているのかを明らかにする基本的な記載事項です。労働基準法施行規則54条1項1号は賃金台帳を労働者各人別に作成して氏名を記入することを求めており、明細書でも宛名の特定が前提になります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
労使協定のない任意控除。労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定め、ただし書で法令に別段の定めがある場合または当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定がある場合に限り控除を認めています。親睦会費・寮費・貸与物の代金などを労使協定なく給与から天引きする運用は、この全額払いの原則に反するおそれがあり、労働基準法120条1号は労働基準法24条に違反した者を三十万円以下の罰金に処すると定めています。
減給の制裁が上限を超える。労働基準法91条は「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定めています。明細書の控除欄に上限を超える減給が計上されている場合、この制限に抵触するおそれがあり、労働基準法120条1号は労働基準法91条に違反した者を三十万円以下の罰金に処すると定めています。
書面交付の請求に電磁的提供のみで応じる。所得税法231条2項は、支払を受ける者の承諾を得れば電磁的方法による支払明細書の提供を認めていますが、そのただし書は、請求があるときに支払明細書を書面で交付することを求めています。所得税法施行令356条2項も、電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは電磁的方法によって提供してはならないと定めています。所得税法242条は、支払明細書を交付せずもしくはこれに偽りの記載をして交付した者(7号)、および正当な理由がないのに231条2項ただし書の請求を拒んだ者(8号)を、一年以下の拘禁刑または五十万円以下の罰金の対象としています。
賃金台帳が調製・記入されていない。労働基準法108条は「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。」と定め、労働基準法施行規則54条1項は氏名・性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・時間外等の時間数・賃金の種類毎の額・控除額の八項目を記入事項として掲げています。給与明細書を交付していても賃金台帳自体が未調製・未記入であれば、労働基準法120条1号により三十万円以下の罰金の対象となります。
退職時、7日以内に金品を返還しない。労働基準法23条1項は「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。」と定めています。最終給与の処理が遅れ七日以内の期限を徒過すると、この規定に違反するおそれがあり、労働基準法120条1号は労働基準法23条に違反した者を三十万円以下の罰金に処すると定めています。なお同条2項は、争いのある賃金についても異議のない部分は同じ期間中に支払うことを求めています。
固定残業代の内訳が明細書から判別できない。労働基準法37条1項は、時間外労働について、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の「二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金」の支払を求めています。ある手当が割増賃金の支払として評価されるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要であるとする判例法理があり、明細書で両者を区別できない運用は、割増賃金が支払われていないと判断される可能性があります。
割増賃金の算定基礎から除外できない手当を除外している。労働基準法37条5項を受けた労働基準法施行規則21条は、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金として、家族手当及び通勤手当のほか「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」「臨時に支払われた賃金」「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を掲げています。これは限定列挙であり、役職手当や皆勤手当などを明細書上で算定基礎から外す運用は、割増賃金の不足と判断される可能性があります。
作成の流れ
- 1
記載項目の整理
勤怠情報(労働日数・労働時間等)、支給情報(基本給・諸手当等の内訳)、控除情報(社会保険料・税金等)、差引支給額という区分ごとに、明細書へ記載する項目を整理します。所得税法231条1項が求める「金額その他必要な事項」の具体は所得税法施行規則100条1項が四号にわたって定めており、これに労働基準法施行規則54条1項の八項目を並べると、明細書と賃金台帳の双方を過不足なく満たす構成を設計できます。給与計算の担当部門が、様式を変更する期の前月までに整理を終えておくと運用に無理が出ません。
- 2
控除項目の適法性確認
控除項目のうち、法令上当然に控除できるものと、それ以外の任意控除とを区分します。法令に根拠がある控除の例としては、所得税法183条1項の源泉徴収、地方税法321条の5第1項の住民税の特別徴収、健康保険法167条1項および厚生年金保険法84条1項の保険料の源泉控除、労働保険の保険料の徴収等に関する法律32条1項の労働保険料の控除があります。これら以外の任意控除がある場合は、労働基準法24条1項ただし書が要求する書面による労使協定の有無を給与支払日の前までに確認し、協定がない項目は控除の根拠を見直します。
- 3
割増賃金の算定基礎の確認
明細書に並ぶ手当のうち、どれを割増賃金の算定基礎に含めるかを確定します。労働基準法施行規則21条が算定基礎から除外できるものとして掲げるのは、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金に限られます。固定残業代を支給している場合は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分、および固定残業代が対応する時間数を明細書上で分けて表示できるよう、賃金規程と様式を突き合わせます。
- 4
交付方法の決定
書面交付を基本としつつ、電磁的方法による提供を行う場合は、所得税法231条2項および所得税法施行令356条1項に基づき、あらかじめ用いる電磁的方法の種類及び内容を示したうえで、書面または電磁的方法により労働者の承諾を得る手続を整えます。承諾を得た場合でも、労働者から書面交付を求められたとき、または電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときに応じられる窓口と手順を、運用開始前に決めておく必要があります。
- 5
支払期日との連動確認
労働基準法24条2項が定める毎月一回以上・一定期日払いの原則に沿って給与支払日を管理し、所得税法施行規則100条1項が求める「その支払の際」の交付に間に合うよう、締日から支給日までの計算スケジュールを逆算します。支給年月日と給与計算対象期間を明細書に明記し、支払サイクルを労働者が確認できるようにします。
- 6
賃金台帳との整合・保存
明細書に記載した勤怠・支給・控除の情報は、労働基準法108条に基づき使用者が別途調製・保存する賃金台帳の記載と整合している必要があります。給与明細書の交付義務(所得税法231条1項)と賃金台帳の調製義務(労働基準法108条)は根拠法・書面が異なる別個の義務であるため、支給日ごとに双方を突き合わせて管理します。賃金台帳の保存期間は労働基準法109条が五年間と定め、同法附則143条1項が当分の間これを「三年間」と読み替えています。
専門家に相談したほうがよい場面
当社は社会保険労務士・税理士・弁護士等の士業資格者を擁しておらず、給与計算の受託や書類作成の受託・代理は行いません。本ガイドおよび当サイトの機能は、利用者自身による編集・提出を前提とした支援ツールです。また、事実と異なる支給額・控除額を記載した明細書の作成には応じません(所得税法242条7号は、支払明細書に偽りの記載をして交付した者を罰則の対象としています)。個別の賃金計算や年末調整・所得税額の算定が必要な場合は税理士に、控除の適法性や労使協定・賃金規程の整備など労務管理の判断が必要な場合は社会保険労務士に、固定残業代の有効性や退職時の賃金紛争など法的判断が必要な場合は弁護士にご相談ください。
よくある質問
- 給与明細書は必ず紙で交付しなければなりませんか。
- 所得税法231条1項により、給与等の支払をする者には支払明細書の交付義務があります。同条2項は、支払を受ける者の承諾を得れば電磁的方法(メール添付やシステム上の閲覧等)による提供も認め、その場合は同条3項により支払明細書を交付したものとみなされます。ただし同条2項ただし書により、労働者から書面での交付を求められた場合には書面で交付しなければなりません。承諾の取り方は所得税法施行令356条1項が定めており、あらかじめ用いる電磁的方法の種類及び内容を示したうえで、書面または電磁的方法により得る必要があります。当サイトは様式・記載事項の一般的な考え方を解説するものであり、個別の運用可否については専門家にご確認ください。
- 給与明細書と賃金台帳はどう違いますか。
- 給与明細書は所得税法231条1項に基づき使用者が労働者本人に交付する書面で、記載事項は所得税法施行規則100条1項が定めています。一方、賃金台帳は労働基準法108条に基づき使用者が各事業場ごとに調製し、労働基準法施行規則54条1項が掲げる氏名・性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・時間外等の時間数・賃金の種類毎の額・控除額を記入・保存する記録です。交付の相手方(労働者本人か使用者内部の記録か)と根拠となる法律が異なる別個の書面である点に注意が必要です。賃金台帳の保存期間は労働基準法109条が五年間と定め、同法附則143条1項が当分の間これを三年間と読み替えています。
- 給与から天引きできる項目に制限はありますか。
- 労働基準法24条1項は、賃金を通貨で、直接労働者に、その全額を支払うことを原則とし、ただし書で「法令に別段の定め」がある場合または労使協定がある場合に限り控除を認めています。所得税法183条1項の源泉徴収、地方税法321条の5第1項の住民税の特別徴収、健康保険法167条1項や厚生年金保険法84条1項の保険料の源泉控除は、この法令上の定めに当たる例です。これら以外を天引きする場合は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、ないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。協定のない任意控除は、この全額払いの原則に反するおそれがあります。
- 有給休暇の残日数は給与明細書に必ず記載しなければなりませんか。
- 労働基準法39条1項は、要件を満たす労働者に年次有給休暇を与える使用者の義務を定めていますが、この条文自体が給与明細書への残日数記載を直接義務づけているわけではありません。他方で労働基準法施行規則24条の7は、労働基準法39条5項から7項までの規定により有給休暇を与えたときに、時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした年次有給休暇管理簿を作成し保存することを求めています。取得状況や残日数を明細書や別の通知書に記載する運用は実務上広く行われていますが、記載の要否や方法については社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
- 退職時の給与明細書はいつまでに交付する必要がありますか。
- 労働基準法23条1項は、労働者の死亡または退職の場合において権利者から請求があったときは、七日以内に賃金の支払いおよび積立金等の返還をしなければならないと定めています。最終給与の計算や明細作成に時間がかかり、この七日以内の支払期限に間に合わないと、同項の義務違反となるおそれがあり、労働基準法120条1号は労働基準法23条に違反した者を三十万円以下の罰金に処すると定めています。退職手続の早い段階で最終月の勤怠を締め、立替金や貸与物の精算方針を決めておくことが望まれます。
出典
- 所得税法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法施行規則(e-Gov法令検索)
- 労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(e-Gov法令検索)
- 労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか。|厚生労働省
- 給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A|国税庁
最終確認日: 2026-08-20
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