制作業務委託契約書(Web・デザイン・映像・イラスト)の解読ガイド

Web制作委託契約書、デザイン制作委託契約書、イラスト制作委託契約書、映像制作委託契約書、クリエイティブ業務委託契約書 とも呼ばれます。

Webサイト、ロゴ、バナー、映像、イラストなどの制作を外部へ委託するとき、成果物の範囲、修正回数、検収、報酬と支払期日、著作権の帰属、二次利用、クレジット表記、改変の可否を固定する契約書です。表題が業務委託でも、実質が完成物を目的とする請負(民法632条)か、作業の遂行を目的とする準委任(民法656条により準用される643条以下)かで、完成義務、報酬、解除の規律が変わります。相手方が、従業員を使用しない個人、又は一の代表者以外に他の役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項1号・2号の特定受託事業者)なら、法人化した一人クリエイターでもフリーランス法が重ねて適用されます。

最終確認日:

どんなときに必要か

制作会社、デザイナー、イラストレーター、映像クリエイター、Web制作者へ発注する前に用意します。納品後に広告、SNS、印刷物、別媒体へ転用する予定がある場合、ラフや没案を扱う場合、修正回数や検収基準で揉めやすい案件では、着手前に条件を固定します。相手方が、従業員を使用しない個人か、一の代表者以外に他の役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項の特定受託事業者)なら、フリーランス法3条1項の明示を発注と同時に行う必要があります。

書面にする必要はあるか

民法632条の請負でも、民法656条により643条以下が準用される準委任でも、契約の成立に法定の書面要件はありません(書面は証拠目的です)。ただし相手方が、従業員を使用しない個人、又は一の代表者以外に他の役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項1号・2号の特定受託事業者)に当たる場合、フリーランス法3条1項は、業務委託をしたら直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務を発注者側に課します。これは契約の成立要件ではなく明示義務です。フリーランス法3条1項ただし書は、内容が定められないことにつき正当な理由がある事項を当面除き、定まった後直ちに明示させます。

必ず入れる事項

  • 契約類型(請負か準委任か)の明示

    完成物の納品が目的なら民法632条の請負、作業の遂行が目的なら民法656条により準用される643条以下の準委任です。表題ではなく実質で決まり、完成義務の有無、報酬の発生時期、解除の要件がここで分かれます。

  • 成果物の範囲・納品形式・ソースデータ

    何を完成させれば債務を履行したことになるかの基準です。編集データ、支給素材、フォント、没案を含むかを書き分けないと、民法637条1項の不適合通知を数える前提となる契約の内容そのものが定まりません。

  • ラフ・初稿・修正回数と追加費用の境界

    相手方が特定受託事業者で、発注者が特定業務委託事業者なら、修正が契約の範囲内か追加発注かを決める条項です。フリーランス法5条2項2号は、責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させ、又は受領後にやり直させる行為を規制対象としますが、フリーランス法5条1項柱書は対象を「政令で定める期間以上の期間行うもの」に限り、その括弧書きを「以下この条において同じ」としているため、この限定はフリーランス法5条2項にも及びます。フリーランス法施行令1条はこの期間を1か月と定めるので、1か月未満の単発案件はフリーランス法5条の対象外です(契約の更新により1か月以上継続することとなるものは含まれます。フリーランス法3条1項の明示義務とフリーランス法4条1項の支払期日には期間の要件がないため、単発案件でも適用されます)。無償のやり直しを止める修正回数の上限は契約で決めておきます。

  • 検収基準・検収期間・不適合通知の方法

    民法637条1項は、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完請求、報酬減額、損害賠償、解除ができないと定めます。対象は種類又は品質の不適合に限られ、数量には及びません。合否基準と通知方法を先に置きます。

  • 報酬額・支払期日・中途終了時の精算

    フリーランス法3条1項の明示事項です。発注者が特定業務委託事業者に当たるなら、フリーランス法4条1項により、支払期日は給付を受領した日から起算して60日の期間内、かつできる限り短い期間内に定めます。中途終了は民法634条や648条3項の割合報酬を踏まえて精算します。

  • 著作権譲渡と著作権法27条・28条の特掲

    著作権法61条2項は、譲渡契約で27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないとき、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めます。特掲を落とすと、翻案や二次利用の場面で発注者が反証責任を負います。

  • 利用範囲(媒体・改変・第三者提供・実績掲載)

    譲渡ではなく利用許諾で組むときの中心条項です。媒体、期間、地域、改変の可否、広告代理店や再委託先への提供、受託者のポートフォリオ掲載を分けて書かないと、納品後の転用が許諾の範囲内かで争いになります。

  • 著作者人格権の不行使・氏名表示・改変の許容範囲

    著作権法59条により著作者人格権は譲渡できません。譲渡条項では処理できないため、不行使特約と、著作権法19条の氏名表示、著作権法20条の同一性保持に関わるトリミング、色調整、文字差替えの許容範囲を個別に定めます。

  • 第三者権利の非侵害保証と使用素材の取扱い

    フォント、ストック写真、BGM、生成AIの出力など成果物に混ざる素材の権利処理を、誰がどこまで行うかを決めます。侵害の主張を受けたときの通知義務、対応主体、費用負担、賠償の上限がないと、公開後の差止めや広告停止の損失が宙に浮きます。

  • 収入印紙(紙で作成する場合)

    紙で作る請負契約書は、印紙税法2条により別表第一の課税物件の欄に掲げる文書(国税庁の区分では第2号文書・請負に関する契約書)に当たり、印紙税法8条1項が作成の時までの相当印紙のはり付けによる納付を義務付けます。納付しなければ印紙税法20条1項により納付しなかった印紙税の額とその2倍との合計額、調査を予知しない自主的な申出なら印紙税法20条2項により印紙税の額とその100分の10との合計額の過怠税を徴収されます。契約金額1万円未満は非課税、金額の記載がない契約書は一通200円で、区分ごとの税額は国税庁タックスアンサーNo.7102で確認します。準委任なら第2号文書には当たりませんが、継続的取引の基本となる契約書は別の号に当たることがあります。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 契約書に著作権を譲渡する旨だけを書き、著作権法27条・28条を特掲しない条項です。著作権法61条2項は「第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と定めます。留保は推定であってみなしではありませんが、特掲がない以上、翻案や動画化を争う場面で発注者が反証責任を負う立場に置かれます。

  • 著作者人格権も発注者に譲渡すると書く雛形です。著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と定めており、この譲渡条項は効力を生じないと解されています。氏名表示や改変を発注者側で確保したいなら、譲渡ではなく、不行使特約、クレジット表記の取決め、改変許諾として書き分ける必要があります。

  • 外注先が作った成果物を発注者の職務著作として当然に扱う設計です。著作権法15条1項は「その法人等の業務に従事する者」が職務上作成し、法人等が「自己の著作の名義の下に公表する」ものを対象としており、外注先は原則としてこれに当たりません。プログラムの著作物は著作権法15条2項で公表名義が要件から外れますが、外注である点は変わりません。譲渡か許諾かを契約で明示します。

  • 支払を検収完了後の翌々月末払いとする条項です。特定業務委託事業者から特定受託事業者への業務委託では、フリーランス法4条1項が支払期日を給付を受領した日から起算して「六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。」と定めます。60日を超える定めをしても、フリーランス法4条2項により、受領日から60日を経過する日が支払期日と定められたものとみなされます。

  • 修正は何度でも無償、発注者の指示があればやり直すという条項です。フリーランス法5条2項2号は、責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させ、又は受領後にやり直させることで「特定受託事業者の利益を不当に害してはならない」としています。ただしフリーランス法5条は政令で定める1か月以上の業務委託に限られるため、期間の要件を確認したうえで設計します。

  • 受託者は成果物について一切の責任を負わない、と書く全面免責条項です。民法559条により売買の規定は有償契約に準用され、民法572条は、担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても「知りながら告げなかった事実」については責任を免れることができないと定めます。不具合や権利処理の不備を知りながら告げずに納品した場面では、免責条項があっても責任は残ります。

  • 請負と準委任を混ぜたまま、完成義務、報酬、解除を同じ文言で処理する条項です。請負では民法641条により、注文者は仕事の完成前ならいつでも損害を賠償して解除でき、民法634条で可分な給付部分の割合報酬が問題になります。準委任では民法651条1項により各当事者がいつでも解除でき、報酬は民法648条3項の割合報酬が入口です。前提の違う規定を一つの条項に混ぜると精算基準が定まりません。

作成の流れ

  1. 1

    契約類型を決める

    完成したWebページ、ロゴ、映像、イラストを納品させる案件は民法632条の請負を軸にします。継続的な制作支援、ディレクション、運用補助など作業の遂行が中心なら、民法656条により準用される643条以下の準委任を軸にします。表題ではなく実質で決まるため、完成義務を負わせるのかどうかを最初に確認します。紙で作成するなら請負に関する契約書は印紙税の課税文書に当たるため、収入印紙の要否も契約類型と併せて確認します。

  2. 2

    成果物と工程・修正回数を切り分ける

    ラフ、初稿、完成稿、ソースデータ、支給素材、没案を分け、納品形式と納期を置きます。修正の回数、軽微修正と仕様変更の区別、追加料金の単価を先に決めます。ここが曖昧だと、民法637条1項の不適合通知に入る前の段階で、そもそも何が契約の内容だったのかが争点になります。

  3. 3

    報酬と明示事項・支払期日を固める

    報酬総額、着手金、中間金、納品後支払、消費税、振込手数料、中止時の精算を記載します。相手方が特定受託事業者なら、フリーランス法3条1項の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、発注と同時に書面又は電磁的方法で明示します。支払期日はフリーランス法4条1項により、給付を受領した日から起算して60日の期間内、かつできる限り短い期間内で設定します。

  4. 4

    権利処理を用途別に書く

    買い取り(譲渡)か、用途を限った利用許諾かを選びます。譲渡なら著作権法61条2項を踏まえて27条・28条を特掲します。許諾なら媒体、期間、地域、改変の可否、第三者提供の可否を列挙します。SNS広告、印刷、動画化、再編集、受託者のポートフォリオ掲載は別項目で扱います。

  5. 5

    人格権と表示・改変を調整する

    著作権法59条により著作者人格権は譲渡できないため、不行使特約として組みます。著作権法19条の氏名表示については、クレジットを必ず出すのか、匿名にするのか、発注者名義で出すのかを決めます。著作権法20条に関わるトリミング、リサイズ、色調整、文字差替え、動画尺の変更は、予定される改変を具体的に許容しておきます。

  6. 6

    検収・解除・終了後の扱いを置く

    検収期間、合否の基準、不合格時の再納品、不適合通知の方法を決めます。解除は請負の民法641条と準委任の民法651条1項で前提が異なるため、どちらで組んだかに合わせて書きます。継続的業務委託(フリーランス法13条1項が定義する語で、フリーランス法施行令3条により6か月以上の期間行う業務委託。契約の更新で6か月以上継続することとなるものを含む)で相手方が特定受託事業者なら、フリーランス法16条1項の30日前の予告も確認します。6か月未満の制作案件はこの予告の対象外です。終了時に成果物や中間データを使えるかも決めます。

専門家に相談したほうがよい場面

高額案件、キャラクターやブランド資産の継続利用、共同制作、第三者素材や生成AIの出力を含む成果物、権利侵害の疑い、納品済みで権利帰属が既に争いになっている場面では、弁護士や著作権実務に詳しい専門家に相談してください。フリーランス法の適用関係や取引条件の是正は公正取引委員会・厚生労働省の相談窓口、印紙税の課否は所轄税務署・国税庁の相談窓口、源泉徴収やインボイスの扱いは税理士の領域です。当社は士業資格者を擁さず、契約書の作成代理、交渉代理、個別事案の法律判断の受託は行いません。本ガイドは利用者自身が編集し締結することを前提とした支援情報です。

よくある質問

契約書がないと制作の委託契約は無効ですか。
書面がないことだけを理由に無効になるものではありません。民法632条の請負でも、民法656条により準用される643条以下の準委任でも、契約の成立に法定の書面要件はなく、書面は証拠目的です。ただし相手方が、従業員を使用しない個人か、一の代表者以外に他の役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項の特定受託事業者)の場合、フリーランス法3条1項により、業務委託をしたら直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務が発注者側にあります。
著作権を譲渡すると書けば自由に改変・再利用できますか。
それだけでは足りません。著作権法61条2項は、27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないとき、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めます。翻案や二次的著作物の利用を予定するなら特掲が要ります。さらに著作権法59条により著作者人格権は譲渡できないため、改変や氏名表示は不行使特約と改変許諾で別に処理します。
クレジット表記は必ず入れないといけませんか。
著作権法19条1項は、著作者が実名や変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を持つと定めます。他方で著作権法19条3項は「著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。」としています。争いを避けるため、表示の要否、表記の文言、掲載位置を契約で決めます。
着手後に発注をキャンセルされたら報酬はどうなりますか。
請負で組んでいるなら、民法641条により注文者は仕事の完成前はいつでも損害を賠償して解除できます。民法634条は、既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときはその部分を仕事の完成とみなし、受ける利益の割合に応じた報酬請求を認めます。準委任なら民法648条3項の割合報酬、成果完成型なら民法648条の2第2項が民法634条を準用します。中止時の精算基準を契約に書いておくのが実務です。
支払を検収後の翌々月末にしてもよいですか。
相手方が特定受託事業者で、発注者が特定業務委託事業者に当たる場合は避けるべきです。フリーランス法4条1項は、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつできる限り短い期間内に支払期日を定めることを求めます。これに違反して定めたときは、フリーランス法4条2項により、受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日と定められたものとみなされます。元委託者から受けた業務を再委託する場合は、フリーランス法3条1項により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日(元委託支払期日)その他の事項を明示したときに限り、フリーランス法4条3項により、支払期日は受領日ではなく元委託支払期日から起算して30日の期間内、かつできる限り短い期間内に定めます。明示していない再委託は、フリーランス法4条1項の受領日から起算して60日の枠のままです。

出典

最終確認日: 2026-08-27

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