業務委託基本契約書(継続的取引・個別契約併用型)
継続的業務委託基本契約書、取引基本契約書、マスターサービスアグリーメント とも呼ばれます。
業務委託基本契約書は、同じ相手に業務を反復して委託するときに、秘密保持・知的財産・再委託・解除・期間といった共通条件を基本契約にまとめ、案件ごとの給付内容・納期・報酬は発注書などの個別契約で確定させる二層構造の契約書です。法律上「業務委託」という単独の契約類型はなく、仕事の完成を約する請負(民法632条)か、法律行為でない事務の委託である準委任(民法656条)かによって、報酬・解除・再委託に適用される規定が変わります。さらに発注先がフリーランス(特定受託事業者)に当たる場合は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)3条の取引条件明示義務が、基本契約の締結とは別に個別の発注ごとに働きます。
最終確認日:
どんなときに必要か
同じ取引先へ開発、制作、保守、コンサルティングなどを反復して委託・受託する場面で使います。単発の取引なら1通の業務委託契約書で足りますが、取引が続くなら、共通条項を基本契約に固定し、個別契約では給付内容・納期・報酬だけを決める形にすると、発注のたびの契約作業が減り、案件ごとの条件のばらつきも防げます。発注側・受注側のどちらにとっても、トラブルの際にどの文書のどの条項が適用されるかを確認する起点になる書類です。
書面にする必要はあるか
基本契約そのものに一般的な法定書面要件はありません。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、書面は主に証拠のために作ります。ただし発注先が特定受託事業者(フリーランス)に当たる場合、発注者(業務委託事業者)はフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)3条1項により、業務委託をした場合は直ちに「特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項」を「書面又は電磁的方法」により明示しなければなりません(内容が定められないことにつき正当な理由がある事項は、定まった後直ちに明示します)。また、資本金区分などの要件を満たす下請取引では、中小受託取引適正化法4条1項が同様の明示義務を定めます。基本契約を結んでいても、これらの明示は個別の発注ごとに必要です。
必ず入れる事項
案件類型ごとの請負・準委任の区分
民法632条の請負は仕事の完成とその結果に対する報酬の約束を要素とし、民法656条は「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」として、保守や助言のような事務処理型の委託(準委任)に委任の規定を働かせます。どちらの類型かを案件の種類ごとに書き分けないと、完成義務の有無、報酬の発生条件、解除の枠組みまで当事者の前提が食い違います。
個別契約の成立手順と基本契約との優先関係
民法522条1項は、契約は申込みに対して「相手方が承諾をしたとき」に成立すると定め、同条2項により方式は自由です。発注書と請書の往復など成立の手順を固定しないと、口頭指示やチャットだけで個別契約が成立したかが争いになり、基本契約と発注書の記載が食い違ったときの優先順位を書かないと、納期や責任制限について矛盾する条件が併存します。
検収の基準・期限と報酬の支払期日
請負型の報酬は民法633条により「報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない」が原則で(物の引渡しを要しないときは第624条1項を準用)、準委任型では民法648条1項により「受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない」とされます。検収の基準・通知期限・支払期日を特約で具体化しないと、支払時期も報酬の可否もこの原則のまま浮動します。
フリーランス法・中小受託取引適正化法の明示事項との対応
発注先が特定受託事業者ならフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)3条1項の明示義務が、資本金区分などを満たす下請取引なら中小受託取引適正化法4条1項の明示義務が、基本契約とは別に個別の発注ごとに働きます。基本契約のどの条項がどの明示事項に対応し、発注書に何を書くかを整理しておかないと、法定の明示事項が漏れたまま運用されます。
成果物の知的財産権の帰属と利用範囲
著作権法61条2項は「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する」と定めています。譲渡構成なら翻案権(同法27条)と二次的著作物の利用に関する権利(同法28条)の特掲、ライセンス構成なら利用範囲の特定を欠くと、成果物の改変や流用の可否が争いになります。
再委託の可否と手続
準委任型では民法644条の2第1項が「受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」と定める一方、民法の請負の節には再委託を制限する一般規定がありません。案件類型によって出発点が逆になるため、承諾の要否と方法、再委託先の行為に対する受託者の責任を契約で統一しておかないと、無断再委託の可否自体が争点になります。
秘密保持条項(対象の特定・例外・返還)
不正競争防止法2条6項の営業秘密は「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」に限られます。契約で秘密情報の範囲・除外事由・終了時の返還や破棄を定め、実際に秘密として管理する状態を作らないと、漏えいの際に同法の保護を受けられるかが不安定になります。
期間・更新と中途解約・精算の定め
民法651条1項は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定め、民法641条は「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」とします。契約期間、自動更新、解約予告、既履行部分の報酬精算を定めないと、これらの原則がそのまま適用され、想定しない時期の解約や精算をめぐる紛争のリスクが残ります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
「本契約に基づく業務はすべて請負とする」と一律に定める雛形です。民法632条は「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定めており、保守・運用・コンサルティングのような事務処理型の業務は民法656条の準委任に当たるのが通常です。実態と異なる類型を書くと、検収や修補の条項が業務と噛み合わず、報酬や解除の場面で契約書が機能しません。
「個別契約は、委託者が発注書を交付した時点で成立する」として、受託者の承諾なしに成立させる型です。民法522条1項は、契約は申込みに対して「相手方が承諾をしたとき」に成立すると定めています。基本契約であらかじめ受託の枠を合意する構成はありえますが、受託者が個別案件を断れるのか、何もしなければ成立してしまうのかを書いていない雛形では、着手前の案件の拘束力をめぐって争いになります。
基本契約があることを理由に、発注時の条件明示を省く運用です。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)3条1項は、業務委託をした場合は直ちに給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項の明示を求めます。公正取引委員会関係同法施行規則1条4項は、一定期間の業務委託に共通する事項をあらかじめ書面等で示したときは「あらかじめ示されたところによる旨を明らかにすることをもって足りる」としますが、これは共通事項の示し方の話で、案件ごとの給付内容や期日の明示が不要になるわけではありません。
「報酬は検収完了後30日以内に支払う。検収完了の時期は委託者の裁量による」型の条項です。発注者が特定業務委託事業者に当たる場合、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)4条1項は、報酬の支払期日を、給付の内容について「検査をするかどうかを問わず」、給付を受領した日(役務提供の委託では役務の提供を受けた日)「から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」とします。60日を超える定めをしたときは、同条2項により受領日から起算して60日を経過する日が支払期日とみなされます。検収を遅らせても支払期日は延びません。
「委託者はいつでも直ちに基本契約と個別契約を解除できる」型の条項です。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)16条1項は、特定業務委託事業者が継続的業務委託(同法13条1項・同法施行令3条により、6か月以上の期間行う業務委託。更新により6か月以上継続することとなるものを含む)に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む)をしようとする場合には「少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない」と定めています(災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合などの例外は厚生労働省令によります)。契約書の文言だけで即時解除できるとは限りません。
電子契約なら印紙の検討は一切不要、紙の基本契約書なら必ず4,000円、と一律に決めることです。印紙税法別表第一の第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)は、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となる契約書のうち政令で定めるものに限られ、契約期間の記載のあるもののうち3か月以内で更新に関する定めのないものは除かれます。また、個別の注文請書も請負に関する契約書(第2号文書)に当たることがあります。該当性と税額は文書ごとの記載内容で決まるため、国税庁の案内で確認し、迷う場合は税務署または税理士に相談してください。
作成の流れ
- 1
案件の類型を業務内容から仕分ける
契約書の題名ではなく、個々の業務の中身で類型を判定します。民法632条の請負(仕事の完成を約束する型)、民法643条の委任(「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」)、民法656条の準委任(法律行為でない事務の委託)のどれに対応するかを案件の種類ごとに整理し、成果完成型と履行割合型のどちらの報酬構成にするかも決めます。
- 2
共通条件と個別条件を配分し、優先順位を明記する
秘密保持、知的財産、再委託、解除、期間、反社会的勢力の排除といった全案件共通の条項は基本契約に、給付内容、納期、納入場所、検収、報酬は個別契約(発注書・請書)に配置します。あわせて、基本契約と個別契約の記載が食い違った場合にどちらを優先するかを、対象となる条項が特定できる形で基本契約に明記します。日付の先後だけに頼ると解釈の争いが残ります。
- 3
法定明示事項と契約書の対応表を作る
発注先が特定受託事業者に当たるなら、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)3条1項と公正取引委員会関係同法施行規則1条1項の明示事項(当事者の識別、業務委託をした日、給付の内容、受領の期日と場所、検査完了期日、報酬の額と支払期日など)が基本契約と発注書のどちらに書かれるかを一覧にします。共通事項は同規則1条4項により、あらかじめ示したところによる旨を明らかにすれば足ります。中小受託取引適正化法4条1項の対象となる下請取引も同様に確認します。
- 4
検収・支払・解除の期限を条文の枠に合わせる
支払サイトは、発注者が特定業務委託事業者ならフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)4条1項の受領日から60日以内の枠に収まるかを確認します。解除や不更新の予告は、継続的業務委託に当たる場合の同法16条1項の30日前予告と整合させます。準委任型の中途終了時の報酬は、民法648条3項が「委任が履行の中途で終了したとき」に既にした履行の割合に応じた請求を認めており、これを前提に精算条項を設計します。
- 5
成立・変更・終了の記録方法を決めて運用する
発注書・請書の様式と授受の方法(メール、電子契約システムなど)、仕様変更の合意の残し方、検収結果の通知、解約通知の方法と保存先を決めて、実際の運用に載せます。紙で作る場合は収入印紙の要否(印紙税法別表第一の第7号文書・第2号文書への該当性)を確認し、電子取引でやり取りした発注書などの記録は税法上の保存義務(電子帳簿保存法)にも関わるため、保存ルールもあわせて整えます。
専門家に相談したほうがよい場面
損害賠償の上限や免責条項の設計、知的財産権の帰属、中途解約時の精算、フリーランス法や中小受託取引適正化法の適用の有無と対応など、条項の設計や個別の紛争にわたる判断は、締結前に企業法務を扱う弁護士に相談してください。印紙税の課否・税額は所轄税務署(国税庁)に確認する事項です。当サイトは資格者を擁しておらず、契約書の作成代行、交渉、個別事案の法的判断は行いません。本ページは条文の一般的な枠組みを説明するものです。
よくある質問
- 基本契約を結んでいれば、毎回の発注書は簡単なもので済みますか。
- 共通事項の記載は簡略化できますが、明示そのものは省けません。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)3条1項は業務委託をした場合に直ちに所定事項の明示を求め、公正取引委員会関係同法施行規則1条4項は、一定期間の業務委託に共通する事項をあらかじめ書面等で示したときは「あらかじめ示されたところによる旨を明らかにすることをもって足りる」とします。つまり基本契約で共通事項を示しておけば、発注書には基本契約による旨と、案件ごとに変わる給付の内容・期日・報酬などを書けば足ります。報酬の具体的な金額の明示が困難なやむを得ない事情がある場合は、同規則1条3項により算定方法の明示で足ります。
- 請負と準委任は、契約書にどちらと書くかで決まりますか。
- 名称だけでは決まらず、義務の中身で判断されます。民法632条の請負は仕事の完成を約束する契約、民法656条の準委任は法律行為でない事務の委託です。準委任でも、民法648条の2第1項は「委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない」と定めており、成果に対して報酬を払う組み方もできます。完成義務を負うのか、事務の遂行自体が目的なのか、報酬を何に対して払うのかを、案件ごとに条項として書き分けることが重要です。
- 小規模な会社や個人事業主が発注する場合にも、フリーランス法は適用されますか。
- 適用されえます。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、旧下請法のような資本金による適用基準を採っていません。保護対象の特定受託事業者は「個人であって、従業員を使用しないもの」または代表者1人だけの一定の法人で、3条1項の明示義務は特定受託事業者に業務委託をするすべての業務委託事業者に働きます。報酬支払期日(4条)や解除等の予告(16条)などの義務は、特定業務委託事業者(従業員を使用する個人、または「法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの」)にかかります。発注側の規模が小さくても対象になりうるため、公正取引委員会の案内で確認してください。なお、契約の名称が業務委託でも、働き方の実態が労働基準法9条の「労働者」(職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者)に当たる場合は、フリーランス法ではなく労働基準法などの労働関係法令の適用が問題になります。
- 紙で作った基本契約書や注文請書に収入印紙は必要ですか。
- 文書ごとの該当性によります。印紙税法別表第一の第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)は、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となる契約書のうち政令で定めるものが対象で、契約期間の記載のあるもののうち3か月以内で更新に関する定めのないものは除かれ、該当すれば1通につき4,000円です。請負の注文請書は第2号文書(請負に関する契約書)として契約金額に応じた印紙税がかかることがあります。電磁的記録で作成・交換した場合の取扱いを含め、国税庁タックスアンサーNo.7141などで確認し、判断に迷う場合は税務署または税理士に相談してください。
- 業務の途中で仕様変更ややり直しを求められたときは、どうなりますか。
- 基本契約に変更の手続(合意の方式、報酬・納期の改定方法)を定めておくのが出発点で、民法上、契約内容の変更も当事者の合意によります。発注者が特定業務委託事業者に当たる場合、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)5条2項2号は、1か月以上の期間行う業務委託(更新により1か月以上継続することとなるものを含む。同条1項・同法施行令1条)について、特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させ、または受領後に給付をやり直させることによって、その利益を不当に害することを禁じています。無償の仕様変更の押し付けや、やり直しの繰り返しは、この規定との関係が問題になりえます。
出典
- e-Gov法令検索 民法(第522条・第632条・第633条・第641条・第643条・第644条の2・第648条・第648条の2・第651条・第656条)
- e-Gov法令検索 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(第2条・第3条・第4条・第5条・第13条・第16条)
- e-Gov法令検索 公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(第1条)
- e-Gov法令検索 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(第1条・第3条)
- e-Gov法令検索 中小受託取引適正化法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律・第4条)
- e-Gov法令検索 著作権法(第61条)
- e-Gov法令検索 不正競争防止法(第2条)
- e-Gov法令検索 印紙税法(別表第一)
- 公正取引委員会 フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組
- 国税庁 タックスアンサーNo.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで
最終確認日: 2026-08-27
同じ分類のガイド(取引・契約)
本ページは一般的な情報提供であり、個別の事案についての法律判断ではありません。ソロイは書類作成の受託を行うものではなく、記載内容の正確性について 保証するものでもありません。実際の作成・運用にあたっては、出典の原文をご確認いただくか、 弁護士など有資格の専門家にご相談ください。