見積書
御見積書、お見積書、見積り書、お見積り書とも呼ばれます。
見積書は、価格・数量・納期等の取引条件を相手方に示す書類で、見積依頼→見積書提示→発注(申込み)→受注(承諾)という流れで契約に至るのが実務上一般的です。民法は、契約が「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示」に対して相手方が承諾したときに成立するとしており、見積書は原則として申込みの誘引にとどまります。ただし記載次第で申込みと評価されれば撤回の自由が制限され、電子帳簿保存法は見積書を電子取引の対象書類として名指ししています。
最終確認日:
どんなときに必要か
相手方から価格・数量・納期等の条件提示を求められた場合、または自ら条件を示して受注を得ようとする場合に作成します。一般の商取引では見積書の交付は法令上の義務ではありません。例外は建設工事で、建設業法20条4項は「建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない」と定め、請求があれば交付が法的義務となります。
書面にする必要はあるか
一般の商取引では見積書に法定の書面要件はなく、証拠目的の書類です。民法は、契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないと定め、口頭の合意でも契約自体は成立し得ます。例外は建設工事で、建設業法20条4項により注文者の請求があれば材料費等記載見積書の交付義務が生じます。建設工事では、建設業法の電磁的提供には注文者の承諾を要します。また電磁的方式で授受した見積書は電子帳簿保存法の電子取引に当たります。電磁的方式で授受した見積書には、電子帳簿保存法の保存義務がかかります。
記載が必要な事項
発行日・見積書番号
発行日は有効期限の起算点であり、番号は電子帳簿保存法7条に基づき財務省令の定めるところで電磁的記録を保存・検索する際の手掛かりとなります。日付と番号を欠くと、どの条件をいつ提示した見積りかを特定できず、後日の証拠価値が大きく下がります。
発行者(自社)の名称・住所・連絡先
見積りの提示主体を特定する記載です。民法の申込みと承諾は、誰と誰の意思表示かが定まって初めて評価できるため、発行者情報を欠くと交渉の当事者が書面上確定せず、成立の有無を争われたときに反証が難しくなります。
宛先(依頼者)の名称
誰に対して提示した条件かを画する記載です。宛先がないと第三者に流用されても異議を述べにくく、相手方ごとに単価を変えている場合に、どの条件がどの取引先向けだったのかを後から書面で切り分けられなくなります。
品目・仕様・数量・単価・金額の内訳
民法が求める「契約の内容を示して」に対応する中核部分です。内訳を欠くと何をいくらで合意したかが確定せず、給付内容や代金額の解釈が争われやすいです。建設工事では材料費等の内訳明示が建設業法の努力義務でもあります。
消費税額・税込/税抜の別
見積金額に消費税を含むかは代金額そのものの解釈に直結します。明示を欠くと請求段階で支払うべき額の認識が食い違い、追加請求や減額交渉に発展します。軽減税率対象を含む取引では適用税率ごとの区分も示す必要があります。
見積有効期限と撤回権の留保文言
民法は、承諾の期間を定めてした申込みは撤回することができないとし、ただし申込者が撤回をする権利を留保したときはこの限りでないと定めます。期限だけ書いて留保文言を欠くと、見積書が申込みと評価された場合に期限内は撤回できなくなります。
納期・引渡時期
いつ給付するかを特定する記載です。当初の提示がないと、後日の遅れが履行遅滞に当たるかを判断する基準時が定まりません。建設工事では工事の工程ごとの作業及び準備に必要な日数の記載が建設業法の対象に含まれます。
支払条件(支払期日・支払方法)
中小受託取引適正化法は、代金の支払期日が、給付を受領した日から起算して六十日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定められなければならないとします。見積段階で示せば、発注時の条件がこの枠を外れていないか早期に検証できます。
適格請求書発行事業者の登録番号(該当する場合)
相手方が仕入税額控除の可否を検討する材料になる記載です。登録の有無で相手方の税負担が変わるため、見積段階で示すと比較検討の土俵に乗りやすいです。ただし番号を書いても見積書が適格請求書そのものになるわけではありません。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
有効期限を書くかどうかで撤回の可否が反転します。民法523条1項は「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。」と定め、期限を書いて留保文言を欠けば期限内は撤回できません。期限を書かない場合も民法525条1項により相当な期間の経過までは撤回できません。見積書が申込みと評価される書きぶりのときは、期限と撤回権の留保を両方書いて初めて拘束を切れます。
見積書を出した相手からの発注を放置すると契約が成立し得ます。商法509条1項は、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならないと定め、この通知を怠った商人は申込みを承諾したものとみなされます。継続取引先からの発注は、断るつもりでも遅滞なく拒絶を通知しなければなりません。
相手方が単価や納期を一部変えた注文書を返してきた場合、民法により「その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす」ため、元の見積条件では契約は成立していません。気づかずに製造や発送に着手すると、「申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合」に当たる取引では、民法により「承諾の意思表示と認めるべき事実があった時」に契約が成立するとされ、相手方が変更した条件で成立したと扱われるおそれがあります。
見積書を中小受託取引適正化法の明示書面の代わりにはできません。委託事業者は製造委託等をした場合、「直ちに」給付の内容・製造委託等代金の額・支払期日及び支払方法その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務を負い、電磁的方法で明示したときも中小受託事業者から書面の交付を求められれば遅滞なく交付しなければなりません。見積書で代替すると中小受託取引適正化法違反となり得ます。
建設工事で値引き前提の指値見積りを求めると建設業法に触れます。建設業法20条2項は材料費等記載見積書の材料費等の額が当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ってはならないと定め、建設業法20条6項は注文者がそう下回る変更を求めることを禁じ、建設業法20条7項は一定額以上の契約について違反した発注者への勧告を定めます。20条3項の見積期間も建設業法施行令5条の9で最低日数が決まっています。
メール添付やPDFで授受した見積書は電子帳簿保存法2条5号の電子取引に当たり、電子帳簿保存法7条により電磁的記録そのものの保存義務が生じます。紙に出力して保管し元データを削除する運用は、この義務を満たさないおそれがあります。保存方法の要件は財務省令に委任されており、法律本文だけを読んでも充足の可否は判断できません。
見積書に相手方の署名・押印による承諾欄を設けると、実質は注文請書として契約の成立を証する文書となり、印紙税法の課税文書に当たると判定される可能性があります。課税物件は印紙税法別表第一に定められ、判定は文書の名称ではなく記載内容によるため、表題を見積書としても課税を免れるとは限りません。
作成の流れ
- 1
見積依頼の受領と適用法令の確認
品目・仕様・数量・希望納期の提示を受け、自社の原価と供給余力に照らして提示可能な条件を精査します。あわせて、建設工事なら建設業法20条が、資本金または従業員数の区分が該当する取引なら中小受託取引適正化法4条1項の明示義務が発注段階でかかることを確認します。相手方が従業員を使用しない個人、または一の代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項の特定受託事業者)であれば、発注側の規模を問わずフリーランス法3条1項の明示義務がかかります。見積段階の書きぶりをこれに合わせます。
- 2
見積書の作成
品目・数量・単価・金額の内訳、消費税の区分、納期、支払条件、有効期限を漏れなく記載します。建設工事では建設業法に従い、工事の種別ごとの材料費・労務費等の内訳と、工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載します。金額は社内の決裁ルールで確定させ、担当者の裁量だけで提示しません。
- 3
法的性質と撤回権の明示
有効期間を発行日から◯日間とする旨の記載に加えて、撤回する権利を留保する文言や、正式な契約は注文書と注文請書の授受により成立する旨を入れるかを検討します。民法523条1項ただし書は、承諾の期間を定めてした申込みは撤回することができないという原則に対する例外として撤回権の留保を認めており、留保の有無で期限内に条件を見直せるかが変わります。
- 4
発行・送付
書面または電磁的方法で送付します。建設業法による材料費等記載見積書の電磁的提供は、注文者の承諾を得ることが前提です。電磁的方式での授受は電子帳簿保存法の電子取引に当たるため、送る側にも受け取る側にも電磁的記録の保存が必要になることを送付時点で見込んでおきます。
- 5
応諾(発注)の受領と契約成立の確認
注文書等を受領したら、見積書と条件が一致しているかを照合します。一部でも変更されていれば民法により新たな申込みとみなされるため、自社が承諾するかどうかを明示します。継続取引先からの申込みには商法の諾否通知義務があるので、断る場合も遅滞なく通知を発します。
- 6
保存
見積書と関連する発注書面を保存します。電磁的に授受した見積書は電子帳簿保存法により、財務省令の定めるところで電磁的記録そのものを保存する必要があります。中小受託取引適正化法が適用される取引では、委託事業者に中小受託取引適正化法の書類の作成・保存義務も別途かかります。
この書式だけでは足りない場面
見積書が申込みか申込みの誘引かの評価、商法509条の諾否通知義務が及ぶ「平常取引をする者」への該当性は、いずれも文言と取引の実態によって結論が変わります。建設業法の適用範囲も、文言と取引の実態によって結論が変わります。印紙税の課否・税額は、所轄税務署(国税庁)が照会先です。中小受託取引適正化法違反の申告は、事業者ご本人が公正取引委員会等に対して行う手続です。
よくある質問
- 見積書を提出したら、相手方の発注に必ず応じなければなりませんか。
- 見積書は一般に申込みの誘引にとどまり、それ自体が契約を成立させる意思表示ではないと解されています。もっとも、有効期限内なら注文どおり供給する旨を明記していれば申込みと評価され、注文により契約が成立し得ます。加えて商法509条1項は、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく諾否の通知を発しなければならないと定め、通知を怠った商人は承諾したものとみなされます。継続取引先には、断る場合も遅滞なく拒絶の通知を発する必要があります。
- 見積書に有効期限を書かなかった場合、いつまで条件に拘束されますか。
- 民法が規律するのは「申込み」であり、見積書が申込みの誘引にとどまる書きぶりであれば、そもそも撤回の可否は問題になりません。見積書が申込みと評価される場合、民法は、承諾の期間を定めないでした申込みは申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回することができず、ただし申込者が撤回をする権利を留保したときはこの限りでない、と定めます。相当な期間の長さは法定されておらず、取引の性質によって異なります。逆に期限を書くと民法523条1項により原則として撤回できなくなり、期限内に承諾の通知を受けなければ申込みは効力を失います。期限と撤回権の留保はセットで書くのが実務上の要点です。
- 見積書は電子データのやり取りで足りますか。保存はどうなりますか。
- 一般の商取引では見積書の書面交付義務はなく、メールやPDFでの授受も可能です。ただし電子帳簿保存法2条5号は電子取引の定義で「注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類」を挙げており、電磁的方式での授受は電子取引に当たります。電子帳簿保存法は、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者に対し、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存することを義務付けています。要件の詳細は財務省令に定められています。
- 建設工事の見積書は、注文者から請求されたら出さなければなりませんか。
- 建設業法20条4項は「建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない」と定めており、請求があれば交付は義務です。記載内容は建設業法が定める材料費・労務費等の内訳と工程ごとの日数です。注文者側にも建設業法の義務があります。注文者は、契約締結(入札の方法によるときは入札)までに建設業法19条1項各号(2号の請負代金の額を除く)の事項をできる限り具体的に提示したうえで、見積期間を設けなければなりません。期間は建設業法施行令で、予定価格500万円未満は1日以上、500万円以上5000万円未満は10日以上、5000万円以上は15日以上とされます(やむを得ない事情があるときは後2者を5日以内に限り短縮できる)。
- 下請法(中小受託取引適正化法)が適用される取引では、見積書があれば発注書面は不要ですか。
- 不要ではありません。中小受託取引適正化法は、委託事業者が製造委託等をした場合に「直ちに」給付の内容・製造委託等代金の額・支払期日及び支払方法その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務を課しています。見積書は発注前の条件提示であり、確定した代金額や支払期日を反映していない限り代替にはなりません。電磁的方法で明示した場合でも、中小受託事業者から書面の交付を求められたときは遅滞なく交付する必要があります。適用は資本金だけでなく従業員数の区分でも判定されます。その区分に当たらない場合でも、相手方が従業員を使用しない個人、または一の代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人、すなわち特定受託事業者であれば、発注側の規模を問わずフリーランス法3条1項により「直ちに」給付の内容・報酬の額・支払期日等を明示する義務がかかり、見積書ではこれも代替できません。
出典
- e-Gov法令検索 民法(第521条〜第528条 契約の成立)
- e-Gov法令検索 商法(第509条 契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
- e-Gov法令検索 中小受託取引適正化法(第3条・第4条・第5条)
- e-Gov法令検索 フリーランス法(第2条 定義・第3条 取引条件の明示)
- e-Gov法令検索 電子帳簿保存法(第2条・第7条)
- e-Gov法令検索 建設業法(第19条・第20条 建設工事の見積り等)
- e-Gov法令検索 建設業法施行令(第5条の9 建設工事の見積期間)
- 国税庁 電子帳簿保存法関係(一問一答・取扱通達)
- 国税庁 印紙税(課税文書の判定)
- 国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン
最終確認日: 2026-08-27