見積書

御見積書、お見積書、見積り書、お見積り書 とも呼ばれます。

見積書は、価格・数量・納期等の取引条件を相手方に示す書類で、見積依頼→見積書提示→発注(申込み)→受注(承諾)という流れで契約に至るのが実務上一般的である。民法522条1項は、契約が「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示」に対して相手方が承諾したときに成立するとしており、見積書は原則として申込みの誘引にとどまる。ただし記載次第で申込みと評価されれば撤回の自由が制限され、電子帳簿保存法2条5号は見積書を電子取引の対象書類として名指ししている。

最終確認日:

どんなときに必要か

相手方から価格・数量・納期等の条件提示を求められた場合、または自ら条件を示して受注を得ようとする場合に作成する。一般の商取引では見積書の交付は法令上の義務ではない。例外は建設工事で、建設業法20条4項は「建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない」と定め、請求があれば交付が法的義務となる。

書面にする必要はあるか

一般の商取引では見積書に法定の書面要件はなく、証拠目的の書類である。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」と定め、口頭の合意でも契約自体は成立し得る。例外は建設工事で、建設業法20条4項により注文者の請求があれば材料費等記載見積書の交付義務が生じ、20条5項の電磁的提供には注文者の承諾を要する。また電磁的方式で授受した見積書は電子帳簿保存法2条5号の電子取引に当たり、電子帳簿保存法7条の保存義務がかかる。

必ず入れる事項

  • 発行日・見積書番号

    発行日は有効期限の起算点であり、番号は電子帳簿保存法7条に基づき財務省令の定めるところで電磁的記録を保存・検索する際の手掛かりとなる。日付と番号を欠くと、どの条件をいつ提示した見積りかを特定できず、後日の証拠価値が大きく下がる。

  • 発行者(自社)の名称・住所・連絡先

    見積りの提示主体を特定する記載である。民法522条1項の申込みと承諾は、誰と誰の意思表示かが定まって初めて評価できるため、発行者情報を欠くと交渉の当事者が書面上確定せず、成立の有無を争われたときに反証が難しくなる。

  • 宛先(依頼者)の名称

    誰に対して提示した条件かを画する記載である。宛先がないと第三者に流用されても異議を述べにくく、相手方ごとに単価を変えている場合に、どの条件がどの取引先向けだったのかを後から書面で切り分けられなくなる。

  • 品目・仕様・数量・単価・金額の内訳

    民法522条1項が求める「契約の内容を示して」に対応する中核部分である。内訳を欠くと何をいくらで合意したかが確定せず、給付内容や代金額の解釈が争われやすい。建設工事では材料費等の内訳明示が建設業法20条1項の努力義務でもある。

  • 消費税額・税込/税抜の別

    見積金額に消費税を含むかは代金額そのものの解釈に直結する。明示を欠くと請求段階で支払うべき額の認識が食い違い、追加請求や減額交渉に発展する。軽減税率対象を含む取引では適用税率ごとの区分も示す必要がある。

  • 見積有効期限と撤回権の留保文言

    民法523条1項は「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。」と定める。期限だけ書いて留保文言を欠くと、見積書が申込みと評価された場合に期限内は撤回できなくなる。

  • 納期・引渡時期

    いつ給付するかを特定する記載である。当初の提示がないと、後日の遅れが履行遅滞に当たるかを判断する基準時が定まらない。建設工事では工事の工程ごとの作業及び準備に必要な日数の記載が建設業法20条1項の対象に含まれる。

  • 支払条件(支払期日・支払方法)

    中小受託取引適正化法3条1項は、代金の支払期日を給付を受領した日から起算して「六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」とする。見積段階で示せば、発注時の条件がこの枠を外れていないか早期に検証できる。

  • 適格請求書発行事業者の登録番号(該当する場合)

    相手方が仕入税額控除の可否を検討する材料になる記載である。登録の有無で相手方の税負担が変わるため、見積段階で示すと比較検討の土俵に乗りやすい。ただし番号を書いても見積書が適格請求書そのものになるわけではない。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 有効期限を書くかどうかで撤回の可否が反転する。民法523条1項は「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。」と定め、期限を書いて留保文言を欠けば期限内は撤回できない。期限を書かない場合も民法525条1項により相当な期間の経過までは撤回できない。見積書が申込みと評価される書きぶりのときは、期限と撤回権の留保を両方書いて初めて拘束を切れる。

  • 見積書を出した相手からの発注を放置すると契約が成立し得る。商法509条1項は「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。」と定め、この通知を怠った商人は申込みを承諾したものとみなされる(商法509条2項)。継続取引先からの発注は、断るつもりでも遅滞なく拒絶を通知しなければならない。

  • 相手方が単価や納期を一部変えた注文書を返してきた場合、民法528条により「その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす」ため、元の見積条件では契約は成立していない。気づかずに製造や発送に着手すると、「申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合」に当たる取引では、民法527条により「承諾の意思表示と認めるべき事実があった時」に契約が成立するとされ、相手方が変更した条件で成立したと扱われるおそれがある。

  • 見積書を中小受託取引適正化法4条の明示書面の代わりにはできない。委託事業者は製造委託等をした場合、「直ちに」給付の内容・製造委託等代金の額・支払期日及び支払方法その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務を負い(4条1項)、電磁的方法で明示したときも中小受託事業者から書面の交付を求められれば遅滞なく交付しなければならない(4条2項)。見積書で代替すると中小受託取引適正化法違反となり得る。

  • 建設工事で値引き前提の指値見積りを求めると建設業法に触れる。建設業法20条2項は材料費等記載見積書の材料費等の額が「当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであつてはならない」と定め、20条6項は注文者がそう下回る変更を求めることを禁じ、20条7項は一定額以上の契約について違反した発注者への勧告を定める。20条3項の見積期間も建設業法施行令5条の9で最低日数が決まっている。

  • メール添付やPDFで授受した見積書は電子帳簿保存法2条5号の電子取引に当たり、電子帳簿保存法7条により電磁的記録そのものの保存義務が生じる。紙に出力して保管し元データを削除する運用は、この義務を満たさないおそれがある。保存方法の要件は財務省令に委任されており、法律本文だけを読んでも充足の可否は判断できない。

  • 見積書に相手方の署名・押印による承諾欄を設けると、実質は注文請書として契約の成立を証する文書となり、印紙税法の課税文書に当たると判定される可能性がある。課税物件は印紙税法別表第一に定められ、判定は文書の名称ではなく記載内容によるため、表題を見積書としても課税を免れるとは限らない。

作成の流れ

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    見積依頼の受領と適用法令の確認

    品目・仕様・数量・希望納期の提示を受け、自社の原価と供給余力に照らして提示可能な条件を精査する。あわせて、建設工事なら建設業法20条が、資本金または従業員数の区分が該当する取引なら中小受託取引適正化法4条1項の明示義務が発注段階でかかることを確認する。相手方が従業員を使用しない個人、または一の代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項の特定受託事業者)であれば、発注側の規模を問わずフリーランス法3条1項の明示義務がかかる。見積段階の書きぶりをこれに合わせる。

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    見積書の作成

    品目・数量・単価・金額の内訳、消費税の区分、納期、支払条件、有効期限を漏れなく記載する。建設工事では建設業法20条1項に従い、工事の種別ごとの材料費・労務費等の内訳と、工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載する。金額は社内の決裁ルールで確定させ、担当者の裁量だけで提示しない。

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    法的性質と撤回権の明示

    有効期間を発行日から◯日間とする旨の記載に加えて、撤回する権利を留保する文言や、正式な契約は注文書と注文請書の授受により成立する旨を入れるかを検討する。民法523条1項ただし書は撤回権の留保を認めており、留保の有無で期限内に条件を見直せるかが変わる。

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    発行・送付

    書面または電磁的方法で送付する。建設業法20条5項による材料費等記載見積書の電磁的提供は、注文者の承諾を得ることが前提である。電磁的方式での授受は電子帳簿保存法2条5号の電子取引に当たるため、送る側にも受け取る側にも電磁的記録の保存が必要になることを送付時点で見込んでおく。

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    応諾(発注)の受領と契約成立の確認

    注文書等を受領したら、見積書と条件が一致しているかを照合する。一部でも変更されていれば民法528条により新たな申込みとみなされるため、自社が承諾するかどうかを明示する。継続取引先からの申込みには商法509条1項の諾否通知義務があるので、断る場合も遅滞なく通知を発する。

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    保存

    見積書と関連する発注書面を保存する。電磁的に授受した見積書は電子帳簿保存法7条により、財務省令の定めるところで電磁的記録そのものを保存する必要がある。中小受託取引適正化法が適用される取引では、委託事業者に中小受託取引適正化法7条の書類の作成・保存義務も別途かかる。

専門家に相談したほうがよい場面

当社は士業資格者を擁さず、書類作成の受託・代理は行いません。本ガイドは見積書の一般的な記載事項と法的性質の説明にとどまります。見積書が申込みか申込みの誘引かの評価、商法509条の諾否通知義務が及ぶ「平常取引をする者」への該当性、建設業法20条の適用範囲は、文言と取引の実態によって結論が変わります。契約条件の設計や取引先との紛争対応は弁護士に、消費税・インボイス制度の判定や電子帳簿保存法の保存要件は税理士に、印紙税の課否・税額は所轄税務署(国税庁)に相談することを推奨します。中小受託取引適正化法違反の申告は、事業者ご本人が公正取引委員会等に対して行う手続です。

よくある質問

見積書を提出したら、相手方の発注に必ず応じなければなりませんか。
見積書は一般に申込みの誘引にとどまり、それ自体が契約を成立させる意思表示ではないと解されている。もっとも、有効期限内なら注文どおり供給する旨を明記していれば申込みと評価され、注文により契約が成立し得る。加えて商法509条1項は「商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない。」と定め、通知を怠った商人は承諾したものとみなされる(商法509条2項)。継続取引先には、断る場合も遅滞なく拒絶の通知を発する必要がある。
見積書に有効期限を書かなかった場合、いつまで条件に拘束されますか。
民法523条・525条が規律するのは「申込み」であり、見積書が申込みの誘引にとどまる書きぶりであれば、そもそも撤回の可否は問題にならない。見積書が申込みと評価される場合、民法525条1項は「承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。」と定める。相当な期間の長さは法定されておらず、取引の性質によって異なる。逆に期限を書くと民法523条1項により原則として撤回できなくなり、期限内に承諾の通知を受けなければ申込みは効力を失う(民法523条2項)。期限と撤回権の留保はセットで書くのが実務上の要点である。
見積書は電子データのやり取りで足りますか。保存はどうなりますか。
一般の商取引では見積書の書面交付義務はなく、メールやPDFでの授受も可能である。ただし電子帳簿保存法2条5号は電子取引の定義で「注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類」を挙げており、電磁的方式での授受は電子取引に当たる。電子帳簿保存法7条は「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。」と定める。要件の詳細は財務省令にあり、税理士に確認するのが安全である。
建設工事の見積書は、注文者から請求されたら出さなければなりませんか。
建設業法20条4項は「建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない」と定めており、請求があれば交付は義務である。記載内容は建設業法20条1項が定める材料費・労務費等の内訳と工程ごとの日数である。注文者側にも建設業法20条3項の義務があり、契約締結(入札の方法によるときは入札)までに建設業法19条1項各号(2号の請負代金の額を除く)の事項をできる限り具体的に提示したうえで、見積期間を設けなければならない。期間は建設業法施行令5条の9で、予定価格500万円未満は1日以上、500万円以上5000万円未満は10日以上、5000万円以上は15日以上とされる(やむを得ない事情があるときは後2者を5日以内に限り短縮できる)。
下請法(中小受託取引適正化法)が適用される取引では、見積書があれば発注書面は不要ですか。
不要ではない。中小受託取引適正化法4条1項は、委託事業者が製造委託等をした場合に「直ちに」給付の内容・製造委託等代金の額・支払期日及び支払方法その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務を課している。見積書は発注前の条件提示であり、確定した代金額や支払期日を反映していない限り代替にはならない。電磁的方法で明示した場合でも、中小受託事業者から書面の交付を求められたときは遅滞なく交付する必要がある(4条2項)。適用は資本金だけでなく従業員数の区分でも判定され、その区分に当たらない場合でも、相手方が従業員を使用しない個人、または一の代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人(フリーランス法2条1項の特定受託事業者)であれば、発注側の規模を問わずフリーランス法3条1項により「直ちに」給付の内容・報酬の額・支払期日等を明示する義務がかかり、見積書ではこれも代替できない。

出典

最終確認日: 2026-08-27

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