インフルエンサー起用契約書の読み方
アンバサダー契約書、PR案件契約書、タイアップ契約書 とも呼ばれます。
インフルエンサー起用契約書は、投稿内容、報酬、投稿時期、広告であることの表示、投稿素材や肖像の利用範囲、投稿の保存・削除、炎上や規制違反時の対応を定める契約です。危険は著作権の権利処理だけでなく、景品表示法5条3号に基づくステルスマーケティング規制への対応にもあります。景品表示法5条柱書は「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」と定めており、規制の名宛人は原則として広告主である事業者です。広告主が表示を管理・確認できる条項設計が要点になります。
最終確認日:
どんなときに必要か
SNS投稿、動画出演、ライブ配信、ブログ記事、レビュー投稿、アンバサダー活動など、商品・サービスのPRを第三者に依頼するときに必要です。単発のPR案件でも、投稿文言、広告であることの表示、ハッシュタグ、事前確認、二次利用、投稿削除、報酬と支払期日、競合排除を口頭だけで進めると、景品表示法対応の証跡も著作権の権利処理の根拠も残りません。相手方が従業員を使用しない個人であれば、フリーランス法の明示義務も重なります。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はない(証拠目的)。インフルエンサー起用契約そのものは、景品表示法5条3号、7条、8条1項、著作権法61条2項のいずれにおいても、契約成立の効力要件として書面を要求されていません。口頭でも成立します。ただし相手方が従業員を使用しない個人などフリーランス法の特定受託事業者に当たる場合、フリーランス法3条1項により、業務委託をしたら直ちに給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務があります。電磁的方法で明示したときに書面の交付を求められた場合は、フリーランス法3条2項により遅滞なく交付します。
必ず入れる事項
広告表示・PR表記の方法
景品表示法5条3号は、一般消費者に誤認されるおそれがあり、自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるとして内閣総理大臣が指定する表示を禁じます。ステマ規制はこの指定(告示)によるもので、表示位置や文言を契約で固定しないと、広告主が措置命令のリスクを管理できません。
投稿内容の事前確認と修正手順
景品表示法7条1項は、違反行為に対する措置命令の根拠です。広告主が投稿前に表示内容、根拠、PR表記、禁止表現を確認する手順を欠くと、違反表示が公開された後に削除や訂正で追う構造になり、事業者として表示管理を尽くしたと説明しにくくなります。
合理的根拠資料の管理
景品表示法7条2項は、5条1号の優良誤認該当性を判断するため合理的根拠を示す資料の提出を求める制度を定め、提出がないときは優良誤認表示とみなすとしています。効能、性能、No.1、体験談風の断定を投稿させるなら、誰が根拠資料を保管し、投稿前に照合するかを決めます。
投稿・画像・動画の著作権帰属と利用許諾
著作権法61条1項は「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。」と定めます。もっとも著作権法61条2項により、27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます。広告への転用や編集利用には特掲が要ります。
著作者人格権の不行使
著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と定めます。譲渡条項では処理できないため、広告用の切り抜き、字幕やテロップの追加、サムネイル編集、クレジット省略に備えるなら、不行使特約と改変の許容範囲で設計します。
肖像・氏名・アカウント名の利用範囲
契約終了後も広告主サイト、LP、バナー、店頭POP、二次広告で顔、氏名、アカウント名を使うなら、媒体、期間、地域、改変可否、削除条件を明示します。著作権法19条の氏名表示権、著作権法20条の同一性保持権とも接続するため、権利ごとに切り分けて書きます。
投稿の保存・削除・アーカイブ義務
景品表示法5条3号への対応では、公開時点でどの表示が出ていたか、広告主がどう指示したかを後から確認できることが重要です。投稿者が自由に削除できるだけの設計にすると、景品表示法7条の措置命令対応や社内調査の場面で、表示内容を説明する手段が残りません。
報酬、支払期日、成果条件
相手方がフリーランス法の特定受託事業者に当たる場合、フリーランス法3条1項により、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を直ちに書面又は電磁的方法で明示する必要があります。ただし明示すれば足りるのではなく、期日そのものに上限があります。広告主が従業員を使用する事業者や役員が二人以上いる法人などフリーランス法2条6項の特定業務委託事業者に当たるときは、フリーランス法4条1項により、支払期日は検査をするかどうかを問わず給付を受領した日(役務の提供を委託した場合は役務の提供を受けた日)から起算して六十日の期間内において、かつできる限り短い期間内において定めなければなりません。これに違反して定めると、フリーランス法4条2項により給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が支払期日とみなされます。広告主が元委託者から受託した業務を投稿者へ再委託する場合は、フリーランス法3条1項により再委託である旨・元委託者の氏名又は名称・元委託支払期日等を明示したときに限り、フリーランス法4条3項の元委託支払期日から起算して三十日という別枠になります。そうでない限り、受領日から六十日を超える支払サイト(月末締め翌々月末払いなど)は置けません。投稿本数、検収、修正、再投稿、キャンセル時の報酬を曖昧にすると支払紛争になります。
契約類型と中途終了時の報酬処理
完成物の納品を求めるなら請負、投稿運用や活動の遂行を求めるなら準委任に近づきます。民法641条は、請負人が仕事を完成しない間は注文者がいつでも損害を賠償して解除できると定め、民法651条1項は委任の各当事者がいつでも解除できると定めます。ただし民法651条2項により、相手方に不利な時期に解除したときなどは相手方の損害を賠償しなければなりません(やむを得ない事由があったときを除く)。さらに広告主が特定業務委託事業者に当たり、アンバサダーのように六月以上続く業務委託(フリーランス法13条1項括弧書きの「継続的業務委託」・同法施行令3条)を特定受託事業者に委託した場合は、フリーランス法16条1項により、解除にも契約期間満了後に更新しない場合にも少なくとも三十日前までの予告が要ります(災害その他やむを得ない事由により予告が困難な場合等は例外)。「いつでも解除できる」とだけ書く条項ではこの予告義務を満たしません。予告した日から契約が満了する日までの間に解除の理由の開示を請求されたときは、フリーランス法16条2項により遅滞なく開示します(第三者の利益を害するおそれがある場合等は例外)。中止時の報酬処理を書かないと争いになります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
ステマ規制を投稿者本人だけの問題と整理するのは危険です。景品表示法5条柱書は事業者が自己の供給する商品又は役務について行う表示を規制する構造で、名宛人は原則として広告主です。投稿者にPR表記を任せ切る条項は、広告主自身の義務を果たす手当てになりません。表示ルールの指定、事前確認、修正指示、削除、証跡保存を広告主が管理できる形にします。
ステマには売上額の3%の課徴金がかかると書く雛形は誤りです。景品表示法8条1項は、課徴金対象行為から「同条第三号に該当する表示に係るものを除く」としており、5条3号型の表示は課徴金の対象外です。ただし景品表示法7条の措置命令の対象にはなり、命令は公表されます。課徴金がないことを理由に契約上の管理義務を軽くする設計は不適切です。
著作権譲渡条項に一切の権利を譲渡するとだけ書く設計には穴が残ります。著作権法61条2項は、27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定するとしています。推定であって擬制ではありませんが、特掲がない以上、広告主側が反証の負担を負う立場に置かれます。切り抜き配信や再編集を予定するなら特掲します。
著作者人格権も譲渡すると書く雛形は機能しません。著作権法59条は著作者人格権が著作者の一身に専属し、譲渡することができないと定めており、譲渡の合意があっても人格権は移りません。氏名表示を省きたい、動画を短尺化したい、テロップを入れたい場合は、著作権法19条・20条の扱いを踏まえ、不行使特約と改変の許容範囲を分けて定めます。
外注した投稿だから当社の著作物だという整理は誤りです。著作権法15条1項の職務著作は、法人その他使用者の発意に基づき、その法人等の業務に従事する者が職務上作成し、その法人等の名義で公表する著作物を対象とします。起用したインフルエンサーは原則としてその業務に従事する者に当たらないため、著作権は投稿者に発生します。だから契約で譲渡または利用許諾を定める必要があります。
単発のPR案件だから書面は不要と整理すると、フリーランス法3条1項を落とすおそれがあります。契約成立の効力要件としての書面とは別に、相手方が特定受託事業者に当たる業務委託では、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を直ちに書面又は電磁的方法で明示する義務があります。この明示義務には、フリーランス法5条1項のような業務委託の期間の要件はありません。
投稿公開後の削除権だけを広告主に置き、保存義務を置かない設計は危険です。景品表示法5条3号や7条の検討では、実際に一般消費者へどの表示が出たか、広告主がどの指示をしたかが問われます。削除してしまうと、自社に有利な事実も再現できません。削除前のスクリーンショット、URL、投稿日時、修正履歴、指示記録の保存を条項化します。
作成の流れ
- 1
案件の実体を分ける
投稿制作、出演、素材提供、広告配信、継続的なアンバサダー活動のどれを依頼するのかを分けます。完成物の納品を重視するなら請負(民法632条以下)、投稿運用や活動の遂行を重視するなら準委任(民法656条・643条以下)に近づきます。報酬は民法648条3項の履行の割合に応じた型か民法648条の2の成果完成型か、解除は民法641条か民法651条かを、契約類型に合わせて置きます。表題が業務委託契約書でも実質で規律が決まります。
- 2
広告表示ルールを固定する
PR、広告、提供、タイアップなどの表示位置、ハッシュタグ、動画内表示、概要欄、ストーリーズでの表示方法を、契約本文か別紙で固定します。根拠は景品表示法5条3号の「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」という規定に基づく指定(告示)であり、条文自体にステルスマーケティングという語はありません。
- 3
投稿前審査を設計する
投稿者の自由な表現に委ねる範囲と、広告主が必ず確認する範囲を分けます。効能、性能、比較、No.1、体験談、価格、キャンペーン条件は根拠確認が必要です。景品表示法7条1項の措置命令と、景品表示法7条2項の合理的根拠を示す資料の提出制度を踏まえ、根拠資料の保管者、確認期限、承認なしで公開された場合の削除・修正義務まで定めます。
- 4
権利利用を棚卸しする
投稿画像、動画、文章、サムネイル、撮影素材、肖像、氏名、アカウント名について、どの媒体で、いつまで、どの地域で、どこまで編集して使うかを列挙します。譲渡型にするなら著作権法61条2項を踏まえて27条・28条を特掲し、許諾型にするなら範囲と再許諾の可否を書きます。著作権法59条により著作者人格権は譲渡できないため、不行使特約と改変の許容範囲は別項目にします。
- 5
報酬と中止時処理を置く
投稿本数、投稿日、検収、修正回数、再投稿、アカウント停止、炎上、商品不具合、広告主都合の中止、投稿者都合の中止について報酬処理を定めます。相手方が特定受託事業者なら、フリーランス法3条1項の明示事項を満たすよう、給付の内容、報酬の額、支払期日を書面又は電磁的方法で残します。支払期日を書き入れるときは、広告主が特定業務委託事業者に当たるならフリーランス法4条1項により、給付を受領した日から起算して六十日の期間内において、かつできる限り短い期間内において定めます。違反して定めた期日は、フリーランス法4条2項により受領した日から起算して六十日を経過する日が支払期日とみなされます。電磁的方法で明示した場合、フリーランス法3条2項により書面の交付を求められたら遅滞なく交付します。
- 6
証跡保存と終了後対応を決める
公開URL、投稿日時、表示文言、画像、動画、広告主の指示、修正履歴、削除依頼、保存期間を決めます。契約終了後の二次利用の継続、削除請求、アーカイブ保存、広告出稿の停止も整理します。景品表示法7条の措置命令への対応でも社内調査でも、後から表示内容を説明できる証跡が判断材料になります。保存責任者と保存場所まで書くと運用が回ります。
専門家に相談したほうがよい場面
景品表示法5条3号に当たるかの判断、個別の表示の適法性評価、炎上時の解除や損害賠償、権利侵害の有無、契約交渉や条項の代理作成は、いずれも個別事案の法的判断です。表示の考え方は消費者庁、フリーランス法の運用は公正取引委員会が公表資料を出しています。紛争の見通しや契約交渉は弁護士へ相談してください。当社は士業資格者を擁さず、契約書作成の受託、代理、交渉、法的判断の提供は行いません。本ガイドは、利用者自身による編集・締結を前提とした支援情報です。
よくある質問
- インフルエンサー本人がPR表記を忘れた場合、広告主も問題になりますか。
- 広告主の問題になります。景品表示法5条柱書は「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」と定め、ステマ規制の名宛人は原則として広告主である事業者だからです。投稿者本人は景品表示法の名宛人ではないのが原則です。したがって契約では、投稿者の義務だけでなく、広告主による表示ルールの指定、事前確認、修正指示、公開後の削除、証跡保存を置く必要があります。個別の表示が5条3号に当たるかは事案ごとの判断になります。
- ステマ規制に違反すると課徴金の対象ですか。
- 景品表示法8条1項は、課徴金対象行為から「同条第三号に該当する表示に係るものを除く」としているため、5条3号型のステマ表示は課徴金の対象外とされています。ただし景品表示法7条の措置命令の対象にはなり、命令は公表されます。契約上の管理義務を軽くしてよい理由にはなりません。なお、同じ投稿が優良誤認(5条1号)や有利誤認(5条2号)にも当たる場合、そちらの評価は別に行われます。
- 投稿を自社広告に二次利用するには何を書けばよいですか。
- 媒体、期間、地域、用途、編集の可否、再許諾の可否、契約終了後の利用可否を明示します。著作権を譲渡させるなら、著作権法61条2項が「第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する」としているため、27条と28条を特掲します。著作者人格権は著作権法59条により譲渡できないので、不行使特約で処理します。肖像や氏名の利用は、著作権とは別の合意として書きます。
- 契約書がなくてもPR案件は成立しますか。
- 契約成立の効力要件としての法定書面要件はありません(証拠目的)。口頭でも契約は成立します。ただし相手方がフリーランス法の特定受託事業者に当たる場合は、フリーランス法3条1項により、業務委託をしたら直ちに給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務があります。内容が定められないことにつき正当な理由があるものは、定まった後に直ちに明示します。景品表示法の表示管理の面でも、契約書がなければ広告主の指示内容を後から示しにくくなります。
- 広告主が投稿内容を細かく指定すると何が問題になりますか。
- 指定そのものが直ちに禁じられているわけではありません。もっとも広告主の関与が強いほど、一般消費者から見て事業者の表示であることが分かるようにする必要性は高まります。景品表示法5条3号に基づく指定(告示)への対応として、台本、NG表現、根拠資料、PR表記、承認フロー、公開後の修正・削除を契約に残します。あわせて著作権法20条1項の同一性保持権があるため、投稿者の作品に広告主が改変を加える場面では、改変の許容範囲を合意しておきます。
出典
- e-Gov法令検索・不当景品類及び不当表示防止法
- e-Gov法令検索・著作権法
- e-Gov法令検索・特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)
- 消費者庁・ステルスマーケティングに関する表示(景品表示法5条3号の指定)
- 公正取引委員会・フリーランス法特設サイト
- 文化庁・著作権制度
最終確認日: 2026-08-27
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