秘密保持契約書(NDA・事業者間)の読み方
NDA、機密保持契約書、秘密保持契約、守秘義務契約書 とも呼ばれます。
秘密保持契約書(NDA)は、業務提携・見積・共同開発・業務委託・出資検討などで相手方に開示する技術情報や営業情報の扱いを定める事業者間の契約です。従業員が一方的に差し入れる誓約書と違い、片務開示か相互開示か、利用目的、第三者提供の範囲、返還・廃棄、契約終了後の存続を双務的に読む必要があります。読みどころは、不正競争防止法2条6項の営業秘密の3要件(秘密管理性・有用性・非公知性)と、契約で定めた秘密情報の範囲がどこでずれるかです。
最終確認日:
どんなときに必要か
商談や共同検討の前に、価格表・顧客リスト・設計資料・ソースコード・製造条件・事業計画などを相手に見せる場面で使います。開示した後に締結すると、すでに相手が知っていた情報や公然化した情報の扱いが争点になりやすいため、原則として情報を出す前に締結します。片務型と相互型のどちらを使うかは、実際の開示方向に合わせて選びます。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はない(証拠目的)。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」と定めており、秘密保持契約について書面を効力要件とする特別の定めは置かれていません。不正競争防止法2条6項も、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義する規定であり、書面要件ではありません。書面化は、秘密管理性・開示範囲・目的外使用禁止を後から示す証拠として重要です。
必ず入れる事項
当事者と開示・受領の方向
開示者と受領者、相互開示かどうかを外すと、秘密保持義務を負う主体を特定できません。不正競争防止法2条1項7号は、営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された者による使用・開示を対象とするため、誰が保有者で誰が示された側かを契約上も示せることが必要です。
秘密情報の定義と特定方法
対象が広すぎると通常の商談情報まで巻き込み、狭すぎると顧客リスト・設計資料・価格条件・試作データが漏れます。不正競争防止法2条6項は秘密として管理されていることを営業秘密の要件とするため、受領者から見て何が秘密か分かる形で特定する書き方が要ります。
秘密情報から除外する情報
公知情報・受領前から保有していた情報・正当な第三者から得た情報・独自開発情報の除外を置かないと、公然と知られている情報まで秘密として扱う建て付けになります。不正競争防止法2条6項の非公知性を欠く情報まで守ろうとして、契約全体の説得力が落ちます。
利用目的の特定
受領者が情報を使える目的を本件検討などに特定しないと、目的外使用禁止の射程が定まりません。不正競争防止法2条1項7号は不正の利益を得る目的等を要件とするため、契約で目的を絞っておかないと、契約違反としても不正競争としても線を引きにくくなります。
第三者提供・社内共有の範囲
グループ会社・外注先・役員従業者・専門家に共有できるかを決めないと、必要な共有まで違反扱いになる一方、再提供先の管理が空白になります。不正競争防止法2条6項の秘密管理性は共有範囲の制御と結び付くため、共有先に同等の義務を負わせる定めが要ります。
複製・保管・アクセス管理
複製の可否、クラウド保存、持出し、アクセス権限、秘密表示の方法を決めないと、秘密として管理されていた事実を示す材料が残りません。不正競争防止法2条6項は秘密管理性を営業秘密の要件とするため、契約書があるだけで要件を満たすとは限りません。
返還・廃棄・削除の手当て
検討終了後の資料・複製物・電子データ・バックアップの扱いを落とすと、終了後も相手方の手元に情報が残り続けます。不正競争防止法2条6項の非公知性は残存データからの流出で失われ得るため、廃棄の範囲と証明方法まで書いておく必要があります。
存続期間(残存条項)
契約期間の満了で秘密保持義務も終わる書き方だと、終了直後からの利用や開示を止めにくくなります。不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たり得る情報は非公知性が続く限り保護の対象になり得るため、契約上も終了後に残る条項を明示しておきます。
違反時の措置(差止め・損害賠償)
差止めの合意や賠償額の予定を置かないと、実際の損害額の立証が重くなります。民法420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する。」と定めており、金額の書き方が救済の幅を左右します。不正競争に当たらない事案では、契約上の請求だけが手段になります。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
NDAを結べば自動的に営業秘密になる、という読み方は誤りです。不正競争防止法2条6項は営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義します。契約書だけがあり、アクセス制限や秘密表示といった管理実態がなければ、秘密管理性が争点になります。
秘密保持義務に違反すれば当然に差止めができる、という前提は危ういです。不正競争防止法2条1項7号が対象とするのは、営業秘密を保有する事業者から示された場合に「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為」です。この目的要件を満たさないと、不正競争防止法3条1項の差止めや5条2項の損害額の推定には乗らず、民法415条1項の債務不履行として争うことになります。
秘密情報を業務上知り得た一切の情報とだけ書き、除外条項を置かない設計は、公知情報・受領者が既に保有していた情報・独自開発情報まで秘密扱いする形になります。不正競争防止法2条6項が公然と知られていないことを要件としている以上、契約上の広い定義がそのまま営業秘密の範囲になるわけではありません。受領者側からは、自社の既存事業を縛る条項として読まれます。
存続条項を落とすと、契約終了後の利用や開示を契約上は止めにくくなります。加えて不正競争防止法15条1項は、営業秘密を使用する行為に対する差止請求権について「その事実及びその行為を行う者を知った時から三年間行わないとき。」「その行為の開始の時から二十年を経過したとき。」に時効消滅すると定めます。さらに不正競争防止法は、15条の規定によりこの権利が消滅した後にその営業秘密を使用した場合について、4条ただし書で「使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。」と定めており、放置すれば差止めだけでなく損害賠償の請求もできなくなります。違反を知りながら放置した期間そのものが不利に働く場面があります。
損害賠償の定めを置かない、あるいは違約金だけを書く設計には注意が要ります。民法420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する。」と定めるため、実損が予定額を上回っても予定額に固定されるように読まれる余地があります。実損の請求を残すなら、予定額を超える損害の賠償を妨げない旨を併記します。民法420条2項は「賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。」と定めています。
秘密保持義務を書けば個人データの受渡しが完結する、とは限りません。個人情報の保護に関する法律27条5項1号により、利用目的の達成に必要な範囲内で取扱いを委託することに伴う提供は第三者提供に当たりませんが、個人情報の保護に関する法律25条は委託元に「委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない」と求めます。NDAの締結だけでは監督義務は果たせません。さらに、委託先が外国にある第三者の場合は規律が変わります。個人情報の保護に関する法律28条1項は、外国にある第三者に個人データを提供する場合には原則としてあらかじめ本人の同意を得なければならないと定めた上で、「この場合においては、同条の規定は、適用しない。」と定めるため、委託に伴う提供であっても27条5項1号によって同意を不要にすることはできません(個人情報保護委員会規則で定める同等水準の外国にある第三者や、相当措置を継続的に講ずるための基準に適合する体制を整備している第三者への提供は、この規律の対象から除かれます)。
相互に情報を出すのに片務型の雛形をそのまま使うと、一方だけが義務を負う契約になります。提携や共同開発の検討では途中から双方が技術情報を出すことが多く、開示方向と義務主体がずれていると、相手方の流用を契約違反として構成しにくくなります。秘密表示のある書面だけを対象にする条項も、口頭説明・画面共有・試作品・データベース閲覧を取りこぼします。
作成の流れ
- 1
開示場面を棚卸しする
誰が、いつ、何を、どの媒体で、誰に見せるのかを書き出します。商談資料・技術資料・顧客情報・価格表・ソースコード・試作品・口頭説明・画面共有を分け、開示が一方向か双方向かを確認します。開示方向が片務型の雛形と合っているかを、この段階で決めます。
- 2
秘密情報と除外情報を分ける
守る情報を列挙し、公知情報・既保有情報・正当取得情報・独自開発情報を除外します。不正競争防止法2条6項は秘密管理性・有用性・非公知性を営業秘密の要件とするため、契約上の定義と実際の管理が食い違わないよう、秘密表示の方法まで含めて決めます。
- 3
利用目的と共有範囲を固定する
受領者が情報を使える目的を、検討対象の取引や案件に結び付けて書きます。社内共有・グループ会社・外注先・専門家への開示を認めるなら、範囲・必要性・同等の義務・責任の所在を条項にします。個人データを含むなら、個人情報の保護に関する法律25条の監督をどう果たすかを別に設計します。
- 4
管理・返還・廃棄を決める
秘密表示、アクセス制限、複製制限、保管場所、電子データの削除、バックアップ、返還・廃棄証明の要否を決めます。契約書があっても不正競争防止法2条6項の秘密管理性が当然に満たされるわけではないため、実際に運用できる水準で書きます。
- 5
終了後と違反時の条項を確認する
契約期間、検討終了時の通知、返還・廃棄、秘密保持義務の存続期間を読みます。あわせて差止め・損害賠償・賠償額の予定・合意管轄を確認します。不正競争防止法15条1項は営業秘密を使用する行為への差止請求権に3年と20年の時効を定めるため、違反を知った後に放置しない運用も決めておきます。
専門家に相談したほうがよい場面
相手方の雛形に、競業避止に近い条項、成果物や改良発明の権利帰属、再委託・グループ共有、海外への移転、個人データを含む情報の取扱い、高額の違約金が入っている場合は、弁護士などの専門家に確認する場面です。個別の情報が営業秘密に当たるか、相手の行為が不正競争防止法2条1項7号に当たるかの判断も、事案ごとの評価になります。印紙税の課否は所轄税務署(国税庁)が窓口です。当社は士業資格者を擁さず、契約書作成の受託や代理交渉、個別事案の法的判断は行いません。利用者自身による編集・締結を前提とした支援ツールです。
よくある質問
- NDAを締結すれば営業秘密として保護されますか。
- NDAは有力な証拠になりますが、それだけで営業秘密になるわけではありません。不正競争防止法2条6項は営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義します。秘密表示、アクセス制限、共有範囲の管理といった実態が伴わない場合、秘密管理性が争点になると考えられます。契約と運用を同じ水準に揃えることが要点です。
- 電子契約やPDFのNDAでもよいですか。
- NDAには法定の書面要件はない(証拠目的)ため、電子契約やPDFでも締結できます。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」と定めています。重要なのは、当事者・対象情報・利用目的・義務内容・締結日・承諾の事実を後から示せることです。
- 相手がNDAに違反したら、差止めや損害賠償はできますか。
- 契約上の請求と不正競争防止法上の請求は別に考えます。不正競争防止法3条1項は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が「その侵害の停止又は予防を請求することができる」と定め、5条2項は「その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。」と定めます。ただし2条1項7号は不正の利益を得る目的等を要件とするため、これに当たらない場合は民法415条1項の債務不履行として争うことになります。
- 秘密保持義務の存続期間は何年にすべきですか。
- 一律の法定年数はありません。技術情報のように非公知性が長く続くものと、価格条件のように短期で陳腐化するものを分け、情報の性質に応じて決めます。不正競争防止法15条1項は、営業秘密を使用する行為に対する差止請求権が「その事実及びその行為を行う者を知った時から三年間行わないとき。」「その行為の開始の時から二十年を経過したとき。」に時効消滅すると定めており、契約期間の設計とは別に、権利行使の時期も意識する必要があります。
- NDAに収入印紙は必要ですか。
- 印紙税の課否と税額は、契約書の記載内容から判断され、所轄税務署(国税庁)の所管です。秘密保持だけを定める契約書と、継続的取引の基本となる条項を併せて置いた契約書とでは扱いが異なり得ます。表題ではなく本文の定めで判断されるため、締結前に文案を示して所轄税務署に確認するのが確実です。当社は印紙税の課否の判断は行いません。
出典
- e-Gov法令検索 不正競争防止法
- e-Gov法令検索 民法
- e-Gov法令検索 個人情報の保護に関する法律
- 経済産業省 営業秘密~営業秘密を守り活用する~
- 個人情報保護委員会 法令・ガイドライン等
- 国税庁 タックスアンサー No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断
最終確認日: 2026-08-27
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