請負型(成果物完成型)の業務委託と成果物の権利処理——著作権法27条・28条の特掲と人格権不行使

成果物完成型業務委託契約書、納品型業務委託契約書、成果物の著作権譲渡条項、著作権の特掲条項 とも呼ばれます。

本稿は、成果物の完成を目的とする請負型の委託で、**完成義務の規律と成果物の権利処理**をどう書くかに絞った深掘り版です。業務委託契約の全体像(請負型と準委任型の見分け、雇用との区別、フリーランス法の明示義務の全体)は総論の「業務委託契約書 解読ガイド」を先にお読みください。本稿が扱うのは、民法632条の請負として完成義務・報酬・検収・中途終了をどう固定するか、そして著作権法61条2項の27条・28条特掲、著作権法59条を踏まえた人格権不行使、著作権法15条の職務著作が外注では原則働かないこと、著作権法63条の利用許諾との使い分けです。制作物・システム・原稿・デザインの発注で効きます。

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どんなときに必要か

成果物を納品してもらい、その完成結果に対して報酬を支払う取引で、**発注者が納品物を改変・翻案して継続利用する予定がある**ときに使います。ウェブサイト、ロゴ、原稿、動画、プログラム、設計資料などが典型です。契約類型が請負か準委任かをまだ決めていない段階、雇用との区別が問題になる段階では、先に総論ガイドで全体像を確認してください。本稿は類型を請負型に決めた後の、仕様・検収・不適合・権利帰属の詰めに向いています。

書面にする必要はあるか

民法632条は「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定め、書面の作成を効力要件としていません。したがって法定の書面要件はない(証拠目的)。ただし相手方がフリーランス法の特定受託事業者に当たるときは、フリーランス法3条1項により、給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を直ちに書面又は電磁的方法で明示する義務が別に生じます。

必ず入れる事項

  • 請負型か準委任型かの明示

    民法632条の請負は仕事の完成を約する契約で、民法656条の準委任は法律行為でない事務の委託です。本文でどちらかを決めないと、完成しなかったときに報酬が発生するか、解除に損害賠償が伴うかが最初から争点になります。

  • 成果物の仕様・納品形式・納期・検収手続

    民法636条は請負人が「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物」を引き渡した場合を扱います。仕様が薄いと適合の基準そのものが無く、検収の合否を判定できません。修正回数の上限も併せて書きます。

  • 不適合を知った時からの通知期限と通知方法

    民法637条1項は、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しないと、履行の追完の請求・報酬の減額の請求・損害賠償の請求・契約の解除ができないと定めます。対象は種類又は品質に関する不適合に限られ、数量不足には及びません。

  • 報酬の額・支払時期・追加作業の単価

    民法633条は報酬を仕事の目的物の引渡しと同時に支払う原則を置くため、着手金や分割払を望むなら特約が要ります。相手方が特定受託事業者で発注者が特定業務委託事業者なら、フリーランス法4条1項により、支払期日は給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内に定めなければなりません。

  • 著作権の譲渡範囲と著作権法27条・28条の特掲

    著作権法61条2項は、27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めます。改変・翻案・派生版の制作を予定するなら、譲渡条項の括弧書きで両条を名指しします。

  • 著作者人格権の不行使に関する条項

    著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と定めるため、譲渡条項では処理できません。公表権(著作権法18条)・氏名表示権(19条)・同一性保持権(20条1項)ごとに、どこまで行使しないかを書きます。

  • 再委託の可否と再委託先の管理

    成果物の一部を第三者に出すと、秘密保持と権利の連鎖が切れて発注者に権利が届きません。フリーランス法4条3項は、再委託である旨・元委託者の氏名又は名称・元委託支払期日等を明示した場合に限り、支払期日を元委託支払期日から起算して30日の期間内において、かつできる限り短い期間内に定めるべきものとします。

  • 中途終了時の精算・引継ぎ・資料返還

    民法641条は、請負人が仕事を完成しない間は注文者がいつでも損害を賠償して解除できると定めます。民法634条2号は、請負が仕事の完成前に解除された場合に可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときはその部分を仕事の完成とみなすため、既作成部分の評価方法を決めておきます。ただし相手方が特定受託事業者で発注者が特定業務委託事業者なら、フリーランス法13条1項の継続的業務委託(フリーランス法施行令3条により6か月以上の期間行うもの。更新により6か月以上継続するものを含む)について、フリーランス法16条1項が解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む)の少なくとも30日前までの予告を求めます(災害その他やむを得ない事由等の例外あり)。民法641条の解除の自由はこの予告義務を外しません。受託者の側は、フリーランス法16条2項により、予告された日から契約が満了する日までの間に解除の理由の開示を請求できます。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 著作権を譲渡すると書くだけで、著作権法27条・28条を特掲しない条項。著作権法61条2項は「第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と定めます。推定であって「みなす」ではないため反証の余地は残りますが、特掲の無い契約書では発注者が反証する側に置かれ、翻案や派生版の制作で利用範囲を争われます。

  • 著作者人格権も譲渡すると書く条項。著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と定めるため、譲渡の合意としては効力が生じないと解され、実務は不行使特約に組み替えます。著作権法20条2項4号は「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」を同一性保持権の適用除外としますが、限定的な受け皿で、通常のリサイズやトリミングの根拠にはなりません。

  • 外注した成果物なのに職務著作を根拠に発注者のものと書く条項。著作権法15条1項は、法人その他使用者の発意に基づき「その法人等の業務に従事する者」が職務上作成し、その法人等が自己の著作の名義の下に公表する著作物を対象とし、プログラムの著作物は著作権法15条2項が公表名義の要件なしに別に定めます。外部の受託者は原則としてこの要件に当たらないため、職務著作を前提にすると譲渡も許諾も無い状態になります。

  • 不適合の通知期間を引渡しの時から1年に書き替え、数量不足まで同じ期間で切る条項。民法637条1項の起算点は注文者が不適合を知った時であり、対象は種類又は品質に関する不適合に限られます。数量不足はこの制限の外です。また民法637条2項は、引渡しの時に請負人が不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは1項を適用しないと定めており、受託者に一方的に有利な短縮はこの枠組みとずれます。

  • 発注者の支給素材や指図に起因する不適合まで受託者に全部負わせる条項。民法636条本文は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、注文者は履行の追完の請求・報酬の減額の請求・損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないとしています。ただし民法636条ただし書は、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときを除きます。支給素材の内訳と指図の記録を残します。

  • 表題は業務委託契約書のまま、請負の条項と準委任の条項を混在させること。請負では民法641条により注文者は仕事の完成前であればいつでも損害を賠償して解除でき、民法634条は可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときの割合報酬を定めます。準委任は民法651条1項で各当事者がいつでも解除できますが、報酬の規律は二つに分かれます。履行割合型は民法648条3項の既にした履行の割合に応じた報酬、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した成果完成型は民法648条の2により、成果の引渡しを要するときは引渡しと同時の支払(同条1項)、中途終了時は同条2項が準用する民法634条の割合報酬です。三つを混ぜると、中途終了時にどの精算をするかが決まりません。

  • 相手方が個人のフリーランスなのに取引条件の明示を後回しにすること。フリーランス法3条1項は、業務委託をしたら直ちに給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示する義務を課します。フリーランス法4条1項は支払期日を給付の受領日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内に定めるべきものとし、定めなければ受領日が支払期日とみなされます。フリーランス法5条1項の禁止行為が政令で定める期間以上の業務委託に限られる点は、3条1項と分けて読みます。

作成の流れ

  1. 1

    契約類型を見極める

    表題ではなく中身で分けます。成果物の完成を約束するなら民法632条の請負、事務処理を任せるなら民法656条の準委任です。完成義務の有無、検収の有無、中途終了時に報酬が出るかを並べて、どちらの規律で読むかを最初に決めます。作業と成果物が混ざるなら、業務区分ごとに書き分けます。

  2. 2

    成果物と検収条件を書き出す

    仕様書、納品形式、データ形式、納期、検収期間、修正回数、無返答時の検収合格みなしを並べます。民法636条が問題にするのは種類又は品質に関する契約内容への適合なので、何をもって適合とするかを契約書か別紙仕様書で特定します。不適合の通知方法と宛先も併記します。

  3. 3

    報酬と支払条件を決める

    報酬額、消費税、実費、追加作業の単価、着手金の有無、支払時期を書きます。民法633条は報酬を目的物の引渡しと同時に支払う原則を置くため、分割や前払を望むなら特約が要ります。相手方が特定受託事業者なら、フリーランス法3条1項の明示義務と、フリーランス法4条1項の、受領日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内に定めるという規律が重なります。

  4. 4

    権利の移転範囲を確定する

    発注者が成果物を改変・翻案して継続利用するなら、著作権法61条2項の推定を避けるため、著作権法27条・28条に規定する権利を譲渡の目的として特掲します。譲渡ではなく利用許諾で足りる場合は、著作権法63条2項が許諾に係る利用方法及び条件の範囲内での利用を認めているので、媒体・期間・地域・改変の可否を具体的に書きます。第三者素材やフォントの許諾条件も洗い出します。

  5. 5

    人格権と表示の扱いを分ける

    著作権法59条により著作者人格権は譲渡できないので、譲渡条項とは別に不行使の範囲を書きます。発注者名義で公表するのか、受託者のクレジットを表示するのか、リサイズ・トリミング・改訂版の作成をどこまで認めるのかを、公表権・氏名表示権・同一性保持権に対応させて決めます。

  6. 6

    終了時と印紙の扱いを詰める

    完成前に終了した場合の既作成部分の評価、資料返還、秘密情報の廃棄、支払済み報酬の清算を決めます。民法641条の注文者による解除と、民法634条2号の割合報酬が出発点です。紙で作る請負契約書は、国税庁の印紙税額一覧表で第2号文書「請負に関する契約書」に当たり、契約金額の記載のないものは一通200円、記載された契約金額が1万円未満のものは非課税です。営業者間で継続する複数の取引の基本的な取引条件を定めるものは第7号文書に該当することがあり、税額が変わります。個別の判定は国税庁のタックスアンサーまたは税理士に確認してください。

専門家に相談したほうがよい場面

成果物の権利帰属、著作権法27条・28条の特掲の要否、著作者人格権の不行使の範囲、職務著作の該当性、不適合をめぐる責任分担、解除後の損害賠償や既作成部分の評価で相手方と対立している場合は、弁護士に相談する場面です。源泉徴収・消費税・印紙の要否は税理士、業務委託と雇用の区別が問題になる局面は社会保険労務士が窓口になります。当社は士業資格者を擁さず、契約書の作成受託・代理、交渉の代理、個別の法律相談は行いません。本ガイドは、利用者自身が編集し締結することを前提とした支援情報です。

よくある質問

請負型と準委任型は何が違いますか。
請負は民法632条により、仕事の完成と、その結果に対する報酬の支払を約する契約です。準委任は民法656条により、法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用します。完成しなかったときに報酬が出るか、解除に損害賠償が伴うかが分かれ、請負では民法641条の注文者による解除と民法634条の割合報酬、準委任では民法651条1項の解除に加え、報酬の規律は履行割合型なら民法648条3項の履行の割合に応じた報酬、成果完成型なら民法648条の2第2項が準用する民法634条の割合報酬が問題になります。表題ではなく条項の中身で判断されます。
著作権は「すべて譲渡する」と書けば足りますか。
足りないことがあります。著作権法61条2項は、著作権法27条又は28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めます。推定なので反証の余地は残りますが、特掲の無い契約書では発注者が反証する側に回ります。翻案、改訂版、派生商品、他媒体への展開を予定するなら、譲渡条項の括弧書きで、著作権法27条及び28条に規定する権利を含む旨を明記します。
著作者人格権も発注者に移せますか。
移せません。著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」と定めています。契約では譲渡ではなく不行使特約として、公表権(著作権法18条)・氏名表示権(19条)・同一性保持権(20条1項)ごとに、発注者名義での公表、クレジットの有無、リサイズやトリミング、改訂版の作成をどこまで認めるかを書きます。著作権法20条2項4号のやむを得ないと認められる改変は限定的な受け皿で、通常の改変の根拠として当てにするものではありません。
発注者が支給した素材や指示が原因で不具合が出たときはどうなりますか。
民法636条本文は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、注文者は履行の追完の請求・報酬の減額の請求・損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないとしています。ただし民法636条ただし書は、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときを除きます。個別の事案がどちらに当たるかは事実認定の問題なので、支給素材の内訳と指示のやり取りを記録に残す設計にします。
フリーランスに発注するときの追加の注意点はありますか。
あります。相手方がフリーランス法の特定受託事業者に当たる場合、フリーランス法3条1項により、業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示します。発注者が特定業務委託事業者なら、フリーランス法4条1項により支払期日は給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定めます。フリーランス法5条1項の受領拒否や報酬減額の禁止は政令で定める期間以上の業務委託に限られるので、期間要件の無い3条1項と混同しないでください。

出典

最終確認日: 2026-08-27

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