退去立会確認書(原状回復精算合意書)

退去確認書、原状回復確認書、敷金精算合意書、退去時精算合意書、明渡確認書 とも呼ばれます。

退去立会確認書(原状回復精算合意書)は、賃貸住宅の明渡しに際して、室内の損傷の状況、鍵・設備の返還、原状回復工事の要否、敷金の精算を賃貸人と賃借人が確認するための書面です。民法621条は、通常の使用収益による損耗と経年変化を原状回復義務から除いています。現況をその場で確認することと、費用負担や敷金の控除額に最終的に合意することは性質の異なる行為なので、一枚の書面で同時に署名を求められたときほど、記載がどちらを意味するのかを読み分けることが必要です。

最終確認日:

どんなときに必要か

居住用賃貸借の明渡し時に立会いを行い、入居時の写真・チェックリストと現況を突き合わせるときに使います。工事見積りや敷金の控除額がその場で確定しないことは多く、その場合は現況の確認書と、金額を確定させる精算合意書を段階として分けます。管理会社の担当者が立ち会うときは、誰の代理として確認するのかも記録します。

書面にする必要はあるか

退去立会確認書に法定の書面要件はありません。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、原状回復や敷金精算の合意も口頭で成立し得ます。書面は、損傷の位置・状態、当事者が確認した範囲、未確定のまま残した項目、精算への合意の有無を後から証明するために作ります。どこまでが事実の確認で、どこからが負担への合意なのかを文言で区別しておくことが、この書面のいちばんの目的です。

必ず入れる事項

  • 物件・契約・立会日時・立会参加者の表示

    どの賃貸借契約の、いつの時点の現況を、誰が確認したのかを特定する部分です。管理会社の担当者が立ち会う場合は、賃貸人の代理として確認する権限があるのかも書いておかないと、後から確認の効力を争われたときに答えられません。

  • 部位ごとの損傷の記載と写真番号の対応

    床・壁・建具・設備を部位別に記録し、入居時の写真やチェックリストと対応する写真番号を付けます。民法621条の原状回復義務は「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷」を対象とするため、入居時から存在した傷かどうかを判別できる記録が出発点になります。

  • 通常損耗・経年変化と賃借人負担の区分

    民法621条は原状回復の対象となる損傷から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と定め、ただし書で賃借人の責めに帰することができない事由による損傷も除いています。損傷の原因と入居年数を分けて記録しないと、この区分を後から適用できません。

  • 工事項目・負担割合・根拠・金額(未確定なら未確定と明記)

    見積りが出ていない段階なら「未確定」と書き、確定額のように読める記載を残さないようにします。国土交通省の原状回復ガイドラインは、賃借人負担となる場合にも設備の経過年数を考慮する考え方を示しており、項目ごとに特約・損傷範囲・経過年数という根拠を書き分けます。

  • 敷金の額、控除項目、返還額と返還時期

    民法622条の2第1項は、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときに、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した「残額を返還しなければならない」と定めています。控除の明細を示さない精算は、この条文の適用を検証できません。

  • 未確定事項の列挙と異議をとどめる欄

    見積り待ちの工事、立会いでは見えない隠れた損傷、公共料金の精算などが残るときは、その対象と確認の期限を明記します。現況を確認した署名が金額への包括的な合意と読まれないよう、確認の範囲を限定する文言と異議をとどめる欄が仕切りとして働きます。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 立会いの場で見積りも示さずに「原状回復費用は全額賃借人の負担とする」と包括的に署名させる書式です。民法621条は原状回復の対象から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と定めており、金額も内訳も示さないまま全額負担に署名させる形は、この区分と特約の内容を確認する機会を失わせます。

  • 損傷の原因を問わず「室内の損傷はすべて賃借人が修繕費用を負担する」とする記載です。民法621条は本文で原状回復義務を定めた上で、「ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」としています。地震や上階からの漏水など、賃借人に帰責できない損傷まで負担させる書きぶりは、このただし書を落としています。

  • 「鍵の返却をもって敷金は返還しないことに双方合意した」とだけ書く記載です。民法622条の2第1項は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときに、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した「残額を返還しなければならない」と定めています。返還額をゼロとするなら、控除する債務の中身が明細として示されている必要があります。

  • 事業者である賃貸人側の査定を「最終のものとし、賃借人は一切異議を述べることができない」とする条項です。消費者契約法10条は、「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と定めており、この型の条項は該当性が争われやすい部分です。

  • 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を、法律の条文であるかのように、または全件に一律の結論を与えるものとして引く説明です。ガイドラインは賃貸借のトラブルの未然防止のための公的な実務資料であって法令ではなく、実際の負担は契約の特約、損傷の状況、説明の経緯という個別の事情を確認して決まります。

  • 賃借人の側から「未払賃料は敷金から充ててほしい」と求めれば支払を済ませられる、とする説明です。民法622条の2第2項は、賃借人が債務を履行しないときに賃貸人が敷金をその債務の弁済に充てることができると定める一方で、「賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない」としています。敷金があることを理由に賃料の支払を止める運用は、この条文と合いません。

作成の流れ

  1. 1

    入居時資料と契約書をそろえる

    賃貸借契約書、原状回復に関する特約、重要事項説明書、入居時の写真・設備チェックリスト、入居中の修繕履歴を立会いの前に手元にそろえます。民法621条の原状回復義務は入居後に生じた損傷だけを対象とするため、入居時の状態を示す資料の有無が確認の質を左右します。

  2. 2

    現況を部位別に記録する

    床・壁・天井・建具・水回り・設備の順に、損傷の位置、大きさ、状態を写真番号と対応させて記録します。民法621条は通常の使用収益による損耗と経年変化を原状回復義務から除いているため、損傷の原因と入居年数の申告も書き取り、どちらに当たるかをその場では断定しません。

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    見積りと負担の根拠の提示を受ける

    工事項目、単価、施工範囲、賃貸人と賃借人の負担割合、根拠となる特約を項目ごとに示してもらいます。国土交通省の原状回復ガイドラインは、賃借人負担となる場合でも設備の経過年数を考慮する考え方を示しています。その場で出ない金額は、確認書に未確定と明記して後日の提示を受けます。

  4. 4

    確認の範囲と未確定事項を書き分けて署名する

    署名の前に、その書面が現況の確認だけを内容とするのか、費用負担や敷金精算への合意まで含むのかを文言で確かめます。金額が入っていない、あるいは「一切」「全額」といった包括的な語がある場合は、確認した事実の範囲を限定する記載と異議をとどめる記載を加えてから署名します。

  5. 5

    敷金精算を確定させ、返還を受ける

    民法622条の2第1項に沿って、敷金の額、控除する債務の明細、返還される残額と振込先・期日を記載した精算書の提示を受け、内容を検討したうえで精算に合意します。合意の後に隠れた損傷が見つかった場合の扱いをあわせて書いておくと、追加請求をめぐる争いを避けやすくなります。

専門家に相談したほうがよい場面

高額な原状回復費用の請求を受けている、包括的な清算条項に既に署名してしまった、通常損耗を賃借人負担とする特約の効力を争いたい、敷金が返還されない、賃貸人の側として特約や精算書式を設計したい——こうした場面は個別事案の法的評価になるため、支払や署名の前に、消費生活センター(電話188)または弁護士にご相談ください。当サイトは資格者を擁しておらず、確認書・合意書の作成代行、賃貸人や賃借人との交渉、個別事案の判断は行いません。条文と公的ガイドラインの一般的な枠組みを説明するものです。

よくある質問

立会いのその場で署名を求められました。署名しなければいけませんか。
退去立会確認書への署名を義務づける法律の規定はありません。署名の前に、その書面が現況の確認だけを内容とするのか、費用負担や敷金精算への合意まで含むのかを読み分けます。金額が未確定のまま「全額負担」「一切異議を述べない」といった文言に署名すると、後からの検証が難しくなります。確認できない項目があるなら、その旨を書き添えるか、書面の写しを受け取って持ち帰り、検討してから対応する選択肢があります。
通常の生活でついた汚れまで賃借人負担とする特約は無効ですか。
一律には決まりません。民法621条は通常損耗と経年変化を原状回復義務から除いていますが、これと異なる特約の効力は別に判断されます。最高裁第二小法廷判決 平成17年12月16日は、賃借人に通常損耗の補修費用を負担させるには、その範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、口頭の説明により賃借人がその旨を明確に認識して合意の内容としたと認められるなど、特約が明確に合意されていることが必要であるとしました。事業者と消費者の間の契約では、消費者契約法10条との関係も問題になります。個別の特約の効力は、弁護士にご相談ください。
敷金はいつ返してもらえますか。
民法622条の2第1項は、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないと定めています。明渡しの完了が起算点であり、入居中に返還を求めることはできません。実際の支払日は控除額の確定を待って定めるのが通常なので、精算書に返還額とあわせて振込期日を書いてもらいます。
2020年より前に結んだ契約にも民法621条は適用されますか。
民法621条と622条の2は平成29年法律第44号による改正で設けられ、2020年4月1日に施行されました。同改正法の附則34条1項により、施行日前に締結された賃貸借契約には改正前の民法が適用されます。もっとも、通常損耗や経年変化を当然には賃借人の負担としない枠組みは、改正前から判例と国土交通省の原状回復ガイドラインの下で同様に扱われてきたため、確認書で損傷の原因と入居年数を区分して記録する意味は変わりません。
立会いの後になって高額な追加請求が届きました。払う必要がありますか。
まず、立会いのときに作成した確認書に、その損傷が記載されていたか、未確定事項として留保されていたかを確かめます。民法621条の原状回復義務は、通常の使用収益による損耗と経年変化を除いた損傷を対象とし、賃借人の責めに帰することができない事由によるものはただし書で除かれています。請求の内訳と根拠の提示を求め、納得できないまま支払や署名をする前に、消費生活センターまたは弁護士にご相談ください。支払うべきかどうかは個別の事情によります。

出典

最終確認日: 2026-08-12

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