賃借人からの解約通知書(解約予告)
賃貸借解約通知書、退去通知書、解約予告書、解約申入書、退去届 とも呼ばれます。
賃借人からの解約通知書(解約予告)は、建物の賃借人が賃貸人または管理会社へ、賃貸借を終了させる意思と退去予定を伝える文書です。民法97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と定めるため、いつ出したかではなく、いつ相手方に届いたかが予告期間の起点になります。契約が普通借家か定期建物賃貸借か、期間の定めがあるかで根拠条文と予告期間が変わるため、通知文を書く前に契約書の解約条項を読むことが出発点になります。
最終確認日:
どんなときに必要か
期間の定めのない建物賃貸借を終了させるとき、期間の定めがある普通借家を契約の中途解約条項に基づいて途中で終わらせるとき、定期建物賃貸借で借地借家法38条7項のやむを得ない事情による解約を申し入れるときに使います。いずれも先に契約書で契約類型と中途解約条項を確認し、該当する根拠を通知書に書き分けます。
書面にする必要はあるか
解約申入れに一般的な法定書面要件はなく、この通知書は証拠のために作ります。民法97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と定めており、予告期間は発信日ではなく到達日から進みます。そのため、通知の内容と到達日を後から確認できる方法(管理会社の受付記録、配達記録の残る郵便、受信記録の残る電磁的方法など)を選びます。契約書が通知の方法や宛先を指定している場合は、その方式に従うことが出発点になります。
必ず入れる事項
契約と物件の特定
契約締結日、物件名・部屋番号、賃貸人・賃借人を記載し、どの賃貸借を終了させる通知かを特定します。民法97条1項の到達により効力を生じるのは特定の賃貸借についての意思表示であり、駐車場契約や複数室の契約と取り違えると、意図しない契約の解約と読まれる余地が残ります。
解約を申し入れる意思の明示と通知日
「退去を検討している」「更新するか相談したい」では解約の意思表示になりません。民法97条1項により効力は到達時に生じるため、解約を申し入れる旨を明記したうえで、通知日と提出方法、受領の記録を残し、到達日を後から確認できるようにします。
契約終了日と明渡し(退去)予定日の区別
賃料の発生が止まる契約終了日と、荷物を搬出して鍵を返す明渡し日は別の日付です。民法622条の2第1項1号は、敷金の返還義務が「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に生じるとしており、両方の日付を区別して書かないと精算の起点が曖昧になります。
解約の根拠(契約条項・条文)と予告期間
期間の定めのない建物賃貸借は民法617条1項2号により解約申入れから三箇月で終了します。期間の定めがある契約は、民法618条が期間内に解約をする権利を留保した場合に民法617条を準用する構造のため、契約の中途解約条項と予告期間を確認しないと終了日の計算根拠を誤ります。
定期建物賃貸借の場合の解約根拠の書き分け
定期建物賃貸借では、契約の中途解約条項によるのか、借地借家法38条7項(居住用で床面積200平方メートル未満の建物に限り、やむを得ない事情で生活の本拠として使用困難となった場合)によるのかを書き分けます。根拠を欠く申入れでは終了日を導けません。
提出先と提出方法
契約書が通知の宛先(賃貸人か管理会社か)や方法を指定していれば、それに従います。民法97条1項により意思表示は相手方に到達しなければ効力を生じないため、受領権限の不明な窓口へ出すと到達の時点が争われ、予告期間の起算が遅れるおそれがあります。
連絡先と敷金返還のための情報
退去後の精算明細や敷金返還の連絡を受け取れる転居先・連絡先を記載します。民法622条の2第1項1号により敷金の返還は賃貸借の終了と明渡しの後になるため、退去後に連絡が取れないと精算が滞ります。振込先などの口座情報は別紙にするなど取扱いを限定します。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
「通知書を投函した日から三か月で終了する」と発信日を起点に書く雛形。民法97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と定めており、予告期間は相手方への到達日から進みます。投函や送信の記録だけでなく、いつ相手方に届いたかを確認できる記録を残さないと、契約終了日の計算そのものが争われます。
期間の定めがある契約なのに「民法617条により三か月前の申入れでいつでも解約できる」とする説明。民法617条1項は「当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは」に適用される規定です。期間の定めがある場合は、民法618条が「その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。」(前条は民法617条)と定めるとおり、契約に中途解約条項があって初めて期間内の解約ができます。
「定期借家は理由を問わず一か月前の通知で中途解約できる」とする解説。借地借家法38条7項の解約申入れは、居住の用に供する建物の賃貸借で「床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る」とされ、さらに「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」に限られます。この限定の外にある店舗・事務所などの定期建物賃貸借では、契約の中途解約条項を確認します。
借地借家法38条7項の解約申入れを特約で排除・制限する条項。同条8項は「前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」と定めており、居住用・床面積200平方メートル未満の定期建物賃貸借でやむを得ない事情がある場合の解約申入れ(同条7項)を封じる特約は、この明文により無効です。特約が書いてあるというだけで解約を諦める必要はありません。
短期解約の違約金を、事情を問わず常に満額請求できるとする条項。賃借人が消費者である場合、消費者契約法9条1項1号は、解除に伴う損害賠償の予定・違約金の合算額が「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えるとき、「当該超える部分」を無効とします。超えない部分まで無効になるわけではなく、条文は部分無効の構造である点も含めて確認します。
「更新手続をしないまま住み続けた場合は元の契約期間がもう一度続くので、期間途中の解約はできない」とする説明。借地借家法26条1項は、期間満了の一年前から六月前までに更新拒絶等の通知がないときは従前の契約と同一の条件で更新したものとみなしたうえで、「ただし、その期間は、定めがないものとする。」と定めています。法定更新の後は期間の定めのない建物賃貸借となるため、賃借人は民法617条1項2号により解約申入れの日から三箇月の経過で終了させることができます。
作成の流れ
- 1
契約類型と中途解約条項を読む
契約書で、普通借家か定期建物賃貸借か、期間の定めの有無、中途解約条項と予告期間、違約金の定め、通知の宛先と方法の指定を確認します。期間の定めがある契約では、民法618条により期間内に解約をする権利を留保した場合に限り期間内の解約申入れができるため、中途解約条項の有無がすべての出発点になります。
- 2
契約終了日と明渡し日を計算する
期間の定めのない建物賃貸借であれば民法617条1項2号(解約申入れから三箇月)、期間の定めがあり中途解約条項がある契約はその条項の予告期間、定期建物賃貸借で借地借家法38条7項に当たる場合は「解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する」という枠組みで契約終了日を計算します。あわせて、荷物の搬出と鍵の返却を行う明渡し日を契約終了日までの日で設定します。
- 3
到達が残る方法で通知する
民法97条1項により意思表示の効力は到達時に生じるため、内容と到達日を追える方法を選びます。管理会社の窓口なら受付印のある控え、郵送なら配達記録の残る方法、電磁的方法なら受信の記録を保存します。民法97条2項は「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」と定めていますが、この規定に頼る事態を避けるためにも、まず契約で指定された宛先と方法に従います。
- 4
退去手続と原状回復の協議を別立てで進める
荷物の搬出、退去立会い、鍵の返却、公共料金や郵便の手続、原状回復の協議を日程表にし、解約通知の到達確認とは分けて進めます。原状回復の費用負担については、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しており、協議の際の公的な参考資料になります(法令そのものではない点に注意してください)。
- 5
敷金の精算に備える
民法622条の2第1項1号は、賃貸人が敷金を返還すべき場合として「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」を挙げており、返還の時期は契約終了と明渡しの両方がそろった後になります。同条1項柱書きにより、返還されるのは受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した残額です。精算明細の送付先を通知書または退去時に伝え、内訳を確認できるようにします。
専門家に相談したほうがよい場面
解約日や違約金の額、定期建物賃貸借の中途解約事由、通知が到達したかどうかをめぐって賃貸人・管理会社と主張が食い違っている場合は、退去や支払を自己判断で進めたり止めたりせず、弁護士または自治体の消費生活センター等の相談窓口に相談してください。原状回復や敷金精算で金額の争いがある場合も同じです。当サイトは資格者を擁さず、通知書の作成代行や個別事案の法的判断は行いません。本ページは条文の一般的な枠組みを説明するものです。
よくある質問
- メールだけで解約を通知できますか。
- 契約書が通知の方法を指定していれば、それに従います。指定がない場合、解約申入れ自体に法定の方式はなく、民法97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」と定めるため、重要なのは到達と内容を後から確認できることです。メールで送るなら、宛先が契約書記載の連絡先であることを確かめ、送信記録に加えて返信など受領の痕跡も保存します。
- 普通借家は必ず三か月前の通知ですか。
- 一律ではありません。民法617条1項2号の三箇月は「当事者が賃貸借の期間を定めなかったとき」の規定です。期間の定めがある普通借家では、民法618条により期間内に解約をする権利を留保した場合に民法617条が準用されるため、契約の中途解約条項が定める予告期間(一か月や二か月の例もあります)が基準になります。中途解約条項がない場合、期間内に一方的に解約する根拠自体がありません(双方の合意による終了は別です)。
- 定期借家でも転勤なら中途解約できますか。
- 借地借家法38条7項は、居住の用に供する建物の賃貸借で床面積200平方メートル未満のものに限り、「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」に解約の申入れを認め、申入れの日から一月の経過で賃貸借が終了するとしています。店舗・事務所や床面積200平方メートル以上の住宅には適用されないため、その場合は契約の中途解約条項を確認します。同条8項により、この解約申入れを制限する賃借人に不利な特約は無効です。
- 更新の手続をしないまま住み続けています。いつでも解約できますか。
- 借地借家法26条1項により、期間満了の一年前から六月前までの間に更新拒絶等の通知がなかったときは、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされますが、「ただし、その期間は、定めがないものとする。」とされています。この法定更新の後は期間の定めのない建物賃貸借となるため、賃借人は民法617条1項2号により、解約申入れの日から三箇月の経過で契約を終了させることができます。契約書に予告期間の特約がある場合にどちらが優先するかは個別の判断になるため、契約書の文言もあわせて確認してください。
- 解約通知を出したら違約金を全額請求されました。払うしかありませんか。
- まず契約の違約金条項と金額の根拠を確認してください。賃借人が消費者である場合、消費者契約法9条1項1号は、解除に伴う損害賠償の予定・違約金の合算額が「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超えるとき、その超える部分を無効とします。同条2項は、事業者が違約金の支払を請求する場合に、消費者から説明を求められたときは算定の根拠の概要を説明する努力義務を定めています。実際にいくらまでが有効かは個別の判断になるため、金額が大きい場合は弁護士や消費生活センターに相談してください。
出典
- e-Gov法令検索 民法(第97条・第617条・第618条・第622条の2)
- e-Gov法令検索 借地借家法(第26条・第38条)
- e-Gov法令検索 消費者契約法(第9条)
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
- 国土交通省『賃貸住宅標準契約書』について
最終確認日: 2026-08-12
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