建物賃貸借契約書(普通借家・居住用)
普通借家契約書、住宅賃貸借契約書、居住用賃貸借契約書、普通建物賃貸借契約書、アパート賃貸借契約書 とも呼ばれます。
アパート・マンションなどの居住用建物を、契約更新のある「普通借家」として貸し借りする条件を記した契約書です。期間の定めがある普通借家では、借地借家法26条1項により、期間満了の1年前から6月前までの間に更新をしない旨の通知等がなければ従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされ(ただし、その期間は定めがないものとされます)、賃貸人からの更新拒絶や解約申入れには28条の正当の事由が必要です。さらに30条は、この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものを無効とします。更新のない定期建物賃貸借とは、この点で仕組みが異なります。
| 書面の要否 | 法定の書面要件はなく、証拠のために作る書類です(民法522条2項)。 |
|---|---|
| 更新の仕組み | 満了の1年前から6月前までに更新拒絶等の通知がなければ、従前と同一の条件で更新とみなされます(借地借家法26条1項・期間の定めがある場合)。 |
| 更新後の期間 | 法定更新の後は、期間の定めがない賃貸借になります(借地借家法26条1項ただし書)。 |
| 不利な特約 | 借地借家法30条により、この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効です。 |
| 連帯保証人 | 個人保証には、民法465条の2第2項の極度額の記載が必要です。 |
最終確認日: ・ 一般的な情報提供であり、個別の事案についての法律判断ではありません。
どんなときに必要か
住宅、マンション、アパートなどを普通借家として新たに貸し借りするとき、または既存の普通借家契約を合意更新するときに用います。あらかじめ決めた時期に確実に明渡しを受けたい場合は、更新のない定期建物賃貸借という別の類型があり、借地借家法38条1項の書面契約と同条3項の事前説明という別個の要件があるため、この様式を流用できません。どちらの類型で貸すのかを最初に確定することが出発点になります。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はなく、証拠のために作る書類です。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、普通借家は民法601条の合意だけで効力を生じます。ただし、賃料、期間、修繕、原状回復などの合意内容を後から証明し、借地借家法の強行規定と食い違う特約を締結前に洗い出すために、実務上は書面化が不可欠とされています。国土交通省も居住用の「賃貸住宅標準契約書」を公表しています。なお、更新のない定期建物賃貸借にする場合は、借地借家法38条1項が書面による契約を要件としており、扱いが異なります。
必ず入れる事項
普通借家の契約書は、物件の特定、期間と更新、金銭条件、修繕と禁止事項、原状回復、保証の6つで組み立てます。借地借家法29条1項により1年未満の期間を書いても期間の定めとしては扱われないため、期間の欄は26条1項の更新の仕組みとあわせて決めます。
物件の表示・付属設備と使用目的
民法601条の賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせる契約であるため、どの建物・部屋かの特定が出発点になります。所在地、部屋番号、面積、付属設備を書き、居住目的である旨と入居者の範囲、駐車場・共用部分・事業利用・ペット飼育の可否を欠くと、用途違反かどうかを判断する基準を失います。
普通借家である旨と契約期間・更新条件
借地借家法26条1項により、期間の定めがある普通借家は、期間満了の1年前から6月前までの間に更新をしない旨の通知等がなければ従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされ、その場合の期間は定めがないものとされます。また、借地借家法29条1項は「期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」と定めており、1年未満の期間を書いても期間の定めとしては扱われません。更新の手続と更新料の有無もここで整理しておかないと、更新のたびに条件の扱いが揺れます。
賃料・共益費・敷金と支払条件
金額、支払期日、支払方法、入退去月の日割り、遅延時の扱いを特定します。敷金は民法622条の2第1項が、名目を問わず賃借人の債務を担保する目的で交付する金銭と定義し、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときに債務額を控除した残額の返還義務を定めているため、返還時期と控除対象をこの枠組みに沿って書きます。
修繕義務の分担と連絡手順
民法606条1項は、賃貸人が賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うと定め、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となったときだけをただし書で除いています。電球交換などの小修繕の扱いと故障時の連絡手順を書いておかないと、負担の押し付け合いで対応が止まります。
禁止事項と賃借権の譲渡・転貸の制限
民法612条1項は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し又は賃借物を転貸することができないと定め、同条2項は違反して第三者に使用収益させたときの解除を認めています。用途違反や騒音などの禁止事項と、違反があった場合の催告・解除の手順もあわせて定めます。
退去時の原状回復と敷金精算の手順
民法621条は、通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化を原状回復義務から除いています。入居時の状況記録、退去時の立会いの方法、精算明細の交付までを決めておかないと、退去時にどの損傷が誰の負担かを確かめる手がかりがなくなります。
連帯保証人を付ける場合の極度額
個人が保証人になる賃貸借の保証は、一定範囲の不特定債務を保証する個人根保証契約にあたります。民法465条の2第2項は「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めており(同条1項の極度額とは、保証人が責任を負う上限額です)、極度額の記載を欠くと保証条項は効力を生じません。
賃借人からの中途解約に関する定め
民法618条は、当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方が期間内に解約をする権利を留保したときに、解約申入れによる終了の規定を準用すると定めています。期間中の解約権と予告期間を書いておかないと、賃借人は原則として期間途中で契約を終わらせる根拠を持ちません。
無効・効力が否定されやすい条項
無効になりやすいのは、借地借家法30条が無効とする賃借人に不利な特約と、民法の原則を消費者に不利な形で外す特約です。更新を当然に否定する条項、修繕義務の全面免除、通常損耗まで負担させる原状回復特約、極度額のない個人保証が代表例です。
期間が満了すれば更新せず当然に終了する、と定める条項です。借地借家法26条1項は、期間満了の1年前から6月前までの間に更新をしない旨の通知等がなければ従前の契約と同一の条件で更新したものとみなすと定め、賃貸人からの更新拒絶の通知や解約申入れには28条の正当の事由が必要です。30条は「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」と定めており、更新のない契約として貸すには、借地借家法38条の定期建物賃貸借など別の類型の要件を満たす必要があります。
法定更新の後も従前と同じ期間の契約が繰り返される、という記載です。借地借家法26条1項は、通知をしなかったときは従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすとした上で、ただし書で「ただし、その期間は、定めがないものとする」と定めています。法定更新後は期間の定めのない賃貸借となり、同じ長さの期間が自動的に再設定されるわけではありません。
設備が壊れても賃貸人は一切修繕しない、とする条項です。民法606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」と定めています。ただし書が除くのは賃借人の責めに帰すべき事由による場合だけであり、原因を問わず修繕義務を全面的に免れる特約は、消費者契約法10条との関係でも効力が問題になります。
通常損耗や経年変化まで理由を問わず賃借人の負担とする包括的な原状回復特約です。民法621条は、賃借人が原状回復義務を負う損傷から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除いています。これを超えて賃借人に負担させる特約は、消費者契約法10条により無効と判断される可能性があり、国土交通省の原状回復ガイドラインも、通常損耗の修繕費用は賃料に含まれるという考え方を示しています。
敷金は理由のいかんを問わず返還しない、または全額を償却するとする条項です。民法622条の2第1項は、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を控除した「残額を返還しなければならない」と定めています。控除すべき債務がないのに敷金を返さない扱いは、この規定と消費者契約法10条との関係で効力が争われやすい部分です。
個人の連帯保証人を、極度額の定めなしに付ける条項です。民法465条の2第2項は「個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない」と定めています(同条1項の極度額とは、保証人が責任を負う上限額です)。2020年4月1日以後に締結する賃貸借の個人保証で、「賃借人の一切の債務を保証する」とだけ書いて金額の上限を書かない雛形では、保証条項は効力を生じません。
賃料の減額は将来にわたり一切請求できない、とする特約です。借地借家法32条1項は、租税その他の負担の増減や経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較により借賃が不相当となったときは、「契約の条件にかかわらず」当事者が将来に向かって借賃の額の増減を請求できると定めています。ただし書が定めに従うとするのは「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約」であり、普通借家で減額請求を封じる特約は、賃借人に不利なものとして効力が認められにくいとされています。
作成の流れ
流れは、契約類型と物件の現況の確定、金銭条件の一覧化、維持管理と終了時の手順の整備、書面の取り交わしと入居時記録の保管、更新時期の管理の5段階です。定期建物賃貸借にする場合は借地借家法38条1項の書面契約と同条3項の事前説明が別に要るため、普通借家の様式は流用できません。
- 1
契約類型と物件の現況を確定する
普通借家として貸すのか、更新のない定期建物賃貸借にするのかを最初に決めます。定期建物賃貸借には借地借家法38条1項の書面契約と同条3項の事前説明という別個の要件があり、普通借家の様式は流用できません。あわせて登記事項や現況と照らして、建物・部屋・付属設備・用途・入居者の範囲を特定します。
- 2
金銭条件を名目ごとに一覧化する
賃料、共益費、敷金、礼金、更新料、保証会社の保証料、火災保険料、退去時精算と、性質の異なるお金を分けて書き出し、支払期日と支払方法を明示します。敷金にあたるものは、民法622条の2第1項の枠組み(賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときに、債務額を控除した残額を返還)に沿って返還時期と控除対象を定めます。
- 3
維持管理と終了の場面の手順を整える
民法606条1項の修繕義務の分担と故障時の連絡手順、民法612条の賃借権譲渡・転貸の承諾、滞納や用途違反があった場合の催告・解除の手順、民法621条の原状回復の範囲を、実際の管理運用と食い違わない形で定めます。個人の連帯保証人を付ける場合は、民法465条の2第2項が求める極度額を必ず記載します。
- 4
書面を取り交わし、入居時記録とともに保管する
契約書は通常2通作成して双方が署名または記名押印し、各自1通を保管します。宅地建物取引業者が媒介する場合の重要事項説明書、入居時の室内写真や設備の状態記録、鍵の受領書、特約の説明記録を契約書と対応付けて残しておくと、民法621条の通常損耗と賃借人負担の損傷の区別を退去時に確かめる材料になります。
- 5
更新時期の管理を決めておく
期間満了が近づいたら、合意更新するのか、条件を見直すのかを話し合います。借地借家法26条1項の通知期間は期間満了の1年前から6月前までであり、この間に更新をしない旨の通知等がなければ従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされます(ただし、その期間は定めがないものとされます)。更新契約書を作る場合は、当初契約の特約との食い違いを点検します。
専門家に相談したほうがよい場面
賃貸人から更新拒絶や立退きを求められている、立退料の交渉をしたい、賃料の増減額で対立している、無断転貸や滞納を理由とする解除を主張された、高額な原状回復費用や敷金の不返還でもめている、といった場面は個別事案の法的評価になるため、通知や合意書に署名する前に不動産事件を扱う弁護士へ相談してください。当サイトは資格者を擁さず、契約書の作成代行や個別の相談には応じられません。宅地建物取引業者が関与する取引に関する苦情は、都道府県の宅地建物取引業担当窓口も相談先になります。
よくある質問
- 契約期間が満了すれば、賃貸借は終わりますか。
- 普通借家では期間満了だけでは終わりません。借地借家法26条1項により、期間満了の1年前から6月前までの間に更新をしない旨の通知等がなければ、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされます(ただし、その期間は定めがないものとされます)。しかも、賃貸人からの更新拒絶の通知や解約申入れは、28条により、建物の使用を必要とする事情、従前の経過、利用状況、財産上の給付の申出などを考慮して「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」とされています。
- 契約書を作らないまま入居しています。契約は無効ですか。
- 無効ではありません。民法522条2項は、契約の成立には法令に特別の定めがある場合を除き書面その他の方式を要しないと定めており、普通借家契約は口頭でも成立します。ただし、賃料の額、期間、敷金の有無、特約の内容を証明する手段がないと、食い違いが生じたときに「言った・言わない」の争いになります。今からでも合意内容を書面にし、双方が同じものを保管しておくことに意味があります。
- 退去のとき、壁紙や床の張り替え費用を全部払うのですか。
- 民法621条は、賃借人が原状回復義務を負う損傷から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除き、さらに賃借人の責めに帰することができない事由による損傷もただし書で除いています。日照による壁紙の変色や家具の設置跡のような通常損耗は、原則として賃借人の負担ではありません。故意・過失による損傷との区別は、入居時の記録と特約の内容に照らして個別に確かめることになります。
- 更新料を払う義務はありますか。
- 更新料は法律上当然に発生するものではなく、契約に定めがあるかどうかがまず問題になります。契約書に更新料条項がある場合について、最高裁第二小法廷判決 平成23年7月15日は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額や更新される期間などに照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効とはいえないと判断しています。契約に定めがないのに請求されている場合は、その根拠を確認してください。
- 敷金はいつ、いくら返ってきますか。
- 民法622条の2第1項は、賃貸人は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないと定めています。返還のタイミングは契約終了時ではなく建物の明渡し後であり、未払賃料や賃借人負担の原状回復費用があれば差し引かれます。控除の内訳は精算明細で確認し、通常損耗の分が含まれていないかを民法621条の枠組みと照らして確かめます。
出典
- e-Gov法令検索 民法(第465条の2・第522条・第601条・第606条・第612条・第618条・第621条・第622条の2)
- e-Gov法令検索 借地借家法(第26条・第28条・第29条・第30条・第32条・第38条)
- e-Gov法令検索 消費者契約法(第10条)
- 国土交通省 『賃貸住宅標準契約書』について
- 国土交通省 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
最終確認日: 2026-08-12
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