債務承認弁済契約書の解読ガイド|時効の更新・遅延損害金・強制執行の関係
債務弁済契約書、債務承認契約書、債務確認書、債務承認及び弁済契約書、分割弁済契約書 とも呼ばれます。
債務承認弁済契約書は、すでに発生している債務があることを債務者が認め、その返し方(残額・分割回数・支払期日など)を当事者で決め直す契約書です。民法152条1項は「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めており、承認は消滅時効の更新事由にあたります。一方で、この書面があるだけでは差押えなどの強制執行はできません。ここでは条文で確かめられる範囲に限って、この書面の意味と古い雛形の落とし穴を整理します。
最終確認日:
どんなときに必要か
売掛金や貸付金の支払が滞り、当事者の間で分割払いなどの返し方を決め直すときに使われます。債権者側は残額をはっきりさせて時効の進行をリセットしたい場面、債務者側は一括請求を避けて支払計画を確認したい場面です。ただし、支払を長く止めている債務について署名を求められている場合は、時効期間が経過している可能性があります。署名すると法的な意味が変わりますので、心当たりがあるときは署名前に弁護士に相談してください。
書面にする必要はあるか
法定の書面要件はなく、証拠を残すための書面です。契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面がなくても成立します(民法522条2項)。ただし、連帯保証人を付けるときは、民法446条2項が「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」と定めます。さらに、その債務が事業のために負担した貸金等債務(金銭の貸渡しや手形の割引による債務)であるときは、個人の保証人については民法465条の6第1項の公正証書も必要です(ただし民法465条の9は、主たる債務者が法人である場合のその理事・取締役・執行役等や総株主の議決権の過半数を有する者のほか、主たる債務者が法人でない場合に限って、その主たる債務者と共同して事業を行う者や、その主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者を適用除外としています)。また、訴訟を経ずに強制執行したいなら、民事執行法22条5号の公正証書(執行証書)が必要です。
必ず入れる事項
承認する債務の発生原因と当初の金額
何についての債務を認めたのかを特定できないと、民法152条1項の更新が及ぶ範囲や、後から請求できる金額の範囲について争いになりやすくなります。取引の時期や契約の名称まで書いておけば、書面だけで対象を確認できます。
承認時点の残元本と既払額の内訳
残額の計算根拠が書かれていないと、利息や遅延損害金を含む金額が正しいのかを債務者側が検証できず、後になって金額そのものを争われる原因になります。残元本と既払額を並べて書けば、双方が同じ数字を前提にしていることを後から確認できます。
分割回数・各回の金額・支払期日・振込先
支払期日が特定されていないと、いつから履行遅滞になるのかが決まらず、法定利率の基準時(民法419条1項の「遅滞の責任を負った最初の時点」)もはっきりしません。振込先と振込手数料の負担まで書いておくと、入金をめぐる行き違いも防げます。
遅延損害金の利率の定め
定めがなければ、民法419条1項本文により遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率で計算されます。ただし同項ただし書は「約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による」と定めます。その債務について定められた約定利率がこれを超えるときは約定利率によります。法定利率は3年を一期として変動します(民法404条3項)。
期限の利益喪失事由と喪失のしかた
分割払が止まったときに残額を一括請求できるかはこの条項次第です。喪失事由と、当然に失うのか請求して失わせるのかを書き分けていないと、請求できる時期が争点になります。
契約書の作成日と当事者の署名・押印
民法152条1項の更新は承認の「時から」進行し直すため、いつ誰が承認したのかを後から確認できる必要があります。日付のない書面はこの点を証明できません。押印まで法令上求められているわけではありませんが、作成者を示す手がかりとして実務上用いられています。
連帯保証人を付ける場合は保証人本人の署名
民法446条2項は「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない」と定めています。保証人欄を用意しても本人が署名した書面が残らなければ、保証の効力自体が問題になります。
事業性の貸金等債務に個人の保証人を付ける場合の公正証書
民法465条の6第1項は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約について、締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ効力を生じないと定めています(同法465条の9に掲げる者を除く)。
事業のために負担する債務に個人の保証人を付ける場合の情報提供
民法465条の10第1項は、事業のために負担する債務の保証を委託するときは、主たる債務者が委託を受ける者に対し、財産及び収支の状況、主たる債務以外に負担している債務の有無と額・履行状況、他に提供する担保の内容についての情報を提供しなければならないと定めています。同条2項は、情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したために誤認して保証がされ、そのことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人が保証契約を取り消せるとしています。同条3項の適用除外は保証人が法人である場合だけで、465条の9のような取締役等の除外はありません。
無効・効力が否定されやすい条項
古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。
私製の契約書に「直ちに強制執行に服する」とだけ書いた雛形。民事執行法22条5号が債務名義とするのは「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され、又は記録されているもの」です。公証人が作成した公正証書でなければ、同じ文言を入れてもこの号の債務名義にはあたりません。
時効期間が過ぎた後の承認まで「時効が更新される」と説明する雛形。民法152条1項は、時効が完成する前の承認について新たに進行を始めると定めた規定です。時効期間の経過後に署名した場合の効果は別の問題として扱われるため、本ガイドでは断定しません。長期間支払っていない債務について署名を求められたときは、署名前に弁護士に相談してください。
遅延損害金の率が上限を超える条項。この上限は、承認する債務が金銭を目的とする消費貸借上の債務である場合の定めです。利息制限法4条1項は、不履行による賠償額の元本に対する割合が同法1条の率の1.46倍を超える部分を無効とし、2項は違約金も賠償額の予定とみなします。債権者が業として行う営業的金銭消費貸借では7条1項により年2割を超える部分が無効です。承認する債務が売買代金や賃料などであれば利息制限法の上限は及びませんが、相手が消費者で自らが事業者である契約なら、消費者契約法9条1項2号が年14.6パーセントを乗じて計算した額を超える部分を無効としています。同号は括弧書きで「支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日」と定めており、分割弁済を定める本書類がそのまま対象になります。
「支払を怠ったときは期限の利益を失う」とだけ書いた雛形。何回の遅れで失うのか、当然に失うのか債権者の請求によって失わせるのかが決まりません。民法137条は破産手続開始の決定を受けたときなどを法律上の喪失事由として定めていますが、分割払の遅れは含まれていないため、契約で書き分ける必要があります。
認める債務の中身が特定されていない雛形。「金○円の債務を承認する」とだけ書き、いつのどの取引から生じた債務なのかを書いていないものがあります。承認の対象が特定できないと、民法152条1項の更新が及ぶ範囲や請求できる金額の範囲が争いになりやすく、書面を作った意味が薄れます。
既存の債務を消費貸借に切り替えたつもりで、その旨を書いていない雛形。民法588条は「金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす」と定めます。どちらの設計かで適用される規定が変わるため、書面上で明確にする必要があります。
作成の流れ
- 1
債務の中身と残額を洗い出す
元になった契約書、請求書、納品書、入金の履歴を突き合わせ、いつ発生したどの債務がいくら残っているのかを一覧にします。利息や遅延損害金を含める場合は、どの期間にどの率で計算したのかも書き出します。ここが曖昧なまま署名すると、後から金額を争うことが難しくなります。
- 2
時効期間が経過していないかを確認する
民法166条1項は、債権は「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」または「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」に時効によって消滅すると定めます。2020年4月1日(改正法の施行日)より前に生じた債権の消滅時効の期間は、改正法の附則10条4項により従前の例によります。同条1項の括弧書きにより、施行日以後に生じた債権でも、その原因である法律行為が施行日前にされたときは同じ扱いです。判断に迷うときは署名前に弁護士へ相談してください。
- 3
弁済条件を決める
分割回数、各回の金額と支払期日、振込先、遅延損害金の利率、期限の利益喪失事由を決めます。遅延損害金を定めない場合は、民法419条1項本文により法定利率で計算されますが、同項ただし書により、その債務について定められた約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によります。返済可能性から離れた分割回数にすると初回から遅れて期限の利益を失いかねないため、実際の資金繰りに合わせて設計します。
- 4
公正証書にするかどうかを決める
不履行のときに訴訟を経ずに強制執行したい場合は、公証役場で公正証書を作成し、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述を記載してもらう必要があります(民事執行法22条5号)。作成には当事者双方または代理人の関与、本人確認、手数料が必要ですので、内容を固めたうえで事前に公証役場へ相談してください。
- 5
双方で内容を確認して署名し、各自が保管する
当事者がそれぞれ1通ずつ保管できるように作成し、作成日を明記します。収入印紙の要否と文書の区分は記載内容によって判断されるため、国税庁が公表している印紙税額の一覧表で該当する号を確認し、迷う場合は税務署の相談窓口に確認してください。
専門家に相談したほうがよい場面
次の場面では、署名する前に弁護士に相談してください。(1)最後の支払から長く時間が空いており、時効期間が経過している可能性がある。(2)認める金額の計算根拠(利息や遅延損害金の期間と率)が示されない。(3)保証人として署名を求められている。(4)分割額が資金繰りから見て明らかに無理がある。(5)他にも借入があり全体の整理を考えている。債権者側も、相手が署名を拒む、時効期間の経過が疑われる、個人に連帯保証を求めるという場面では同じです。当サイトは資格者を擁しておらず、契約書の作成代行や債権回収の交渉・代理は行いません。
よくある質問
- この契約書を作ると、時効はどうなりますか。
- 民法152条1項は「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めています。債務者が債務の存在を認めると、それまで進んでいた時効期間はリセットされ、承認の時から新たに進み直します。ただしこれは時効が完成する前の承認についての規定です。すでに時効期間が経過している可能性がある場合は、署名の前に弁護士に相談してください。
- 「強制執行に服する」と書いておけば、すぐに差押えができますか。
- できません。民事執行法22条5号が債務名義として挙げるのは、金銭の一定の額の支払などを目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されたもの(執行証書)です。法務省も、金銭債務についての公正証書はこの陳述がある場合に執行力を有すると説明しています。当事者だけで作った契約書に同じ文言を入れても、それだけでは強制執行はできません。
- 遅延損害金の利率は自由に決められますか。
- 金銭を目的とする消費貸借上の債務については、利息制限法4条1項により、賠償額の元本に対する割合が同法1条の率の1.46倍を超える部分が無効とされ、債権者が業として行う営業的金銭消費貸借では7条1項によりその割合が年2割を超える部分が無効です。なお利率を定めなかった場合は民法419条1項本文の法定利率によりますが、同項ただし書により、その債務について定められた約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によります。売買代金などの債務を民法588条の準消費貸借として組み替えた場合を含め、具体的な当てはめは弁護士に確認してください。
- 収入印紙は必要ですか。
- 印紙税がかかるかどうかと文書の区分は、契約書の記載内容によって判断されます。国税庁が公表している印紙税額の一覧表で、作成する文書がどの号の文書に当たるかを確認し、判断に迷う場合は税務署の相談窓口に確認してください。当サイトでは個別の文書についての課否は判断できません。
出典
- 民法(e-Gov法令検索)
- 利息制限法(e-Gov法令検索)
- 民事執行法(e-Gov法令検索)
- 消費者契約法(e-Gov法令検索)
- 法務省「公証制度について」
- 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」
- 国税庁 No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
最終確認日: 2026-08-07
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