示談書

和解契約書、示談合意書、損害賠償合意書、和解書 とも呼ばれます。

示談書は、交通事故の物損や金銭の支払をめぐるトラブルなど、既に生じている争いについて、当事者が話し合いで解決する条件を確認する書面です。民法695条は「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」と定めており、互いに譲歩して争いをやめる内容の示談書は、この和解契約としての性質をもつとされています。支払額と支払方法、履行の確認、清算条項、秘密保持などが中心になり、特に清算条項の書き方によって、後から追加の請求ができるかどうかが変わります。本ページは条項の一般的な意味を条文で説明するもので、個別の事案についての判断は含みません。

最終確認日:

どんなときに必要か

交通事故の物損、貸したお金や売掛金の支払、器物の損壊、近隣トラブルなど、既に争いがある当事者間で、金額、支払方法、謝罪、返還、今後の請求範囲について解決の合意に至ったときに作成します。民法695条の和解は当事者が互いに譲歩することを要素とするため、一方が債務を認めるだけの債務承認書や、支払を求める請求書とは目的が異なります。損害の全体像や保険の適用が固まっていない段階で急いで締結すると、履行されないまま清算条項だけが残ることになりかねません。

書面にする必要はあるか

法定の書面要件はなく、証拠目的の書類です。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、示談(和解)の合意は口頭でも成立します。ただし、どの争いを、どの範囲で終わらせたのかは、書面にしなければ後から証明できません。争いの蒸し返しを防ぐことが示談書の目的である以上、実務上は書面化が不可欠とされています。また、私文書の示談書に署名しても、それだけで直ちに強制執行ができるようになるわけではありません。強制執行には民事執行法22条の債務名義が必要です。

必ず入れる事項

  • 当事者の表示と、争いの対象の特定

    民法696条の和解の確定効は「争いの目的である権利」について生じるため、事故の日時・場所、契約や請求の内容などで、誰と誰の、どの争いを終わらせる和解かを特定しないと、清算条項の射程も定まりません。

  • 互いの譲歩と、合意した義務の内容

    民法695条は「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。誰が何を認め、何を支払い、何を実行するのかを、認めていない事実と区別して書きます。

  • 支払額、支払期日、支払方法、分割の条件

    総額、各回の期日と金額、振込先、振込手数料の負担を特定しないと、遅延の有無や起算点が確定しません。分割払いの場合は、支払を怠ったときに残額を一括請求できるようにする期限の利益喪失条項を置くかどうかも検討します。

  • 遅延損害金・違約金の定め

    民法420条1項は「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」と定め、同条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」としています。定める場合は、利率または金額と起算日を明確にします。

  • 清算条項と、その対象範囲

    民法696条は、和解で権利の帰属が確定した後に反対の確証が得られても覆らないという確定効を定めています。対象を本件事故・本件請求に限定するか、まだ判明していない請求まで含めるかで、後から請求できる範囲が大きく変わる部分です。

  • 不履行の場合の手当てと、執行方法の見通し

    私文書の示談書は民事執行法22条に列挙される債務名義ではないため、不払いになってもそのまま差押えには進めません。金額が大きい場合や分割払いの場合は、同条5号の執行証書(債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書)にするかを検討します。

  • 作成日、署名または記名押印、原本の通数

    いつの時点で、誰が合意したのかを特定する部分です。作成日は、その後に生じた損害が清算条項に含まれるかを考える基準になります。代理人が署名する場合は委任状で権限を確認し、同じ内容の原本を作成して各当事者が保管します。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 事件を特定しないまま「今後一切の請求を相互に放棄する」とだけ書く雛形です。民法696条は、和解によって「争いの目的である権利」の帰属が認められた後に反対の確証が得られても、権利は和解によって移転し又は消滅したものとするという確定効を定めています。対象の事故・期間・請求項目を特定しない包括的な放棄は、話題に出ていなかった損害や後から判明した損害まで含む読み方をされるかが争われやすい部分です。

  • 「その場で署名しなければ帰さない」などと迫って署名させる進め方です。民法96条1項は「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」と定めていますが、署名した後から取消しを主張して争うのは容易ではありません。検討や相談の時間を求めることは正当であり、急かされる場面ほど、署名前に内容を確認する意味があります。個別の事案が強迫に当たるかどうかの判断は、本ページでは扱いません。

  • 「この示談書があるから、支払わなければすぐに差押えできる」という説明です。民事執行法22条は「強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う」と定めており、私文書の示談書はここに列挙されていません。同条5号の執行証書に当たるのは、金銭の一定の額の支払等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され、又は記録されているものです。示談書に署名しただけでは、この要件を満たしません。

  • 「裁判上の和解と同じ効力がある」とうたう私製の示談書雛形です。民事訴訟法267条1項が確定判決と同一の効力を認めるのは、「裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したとき」のその記録であって、当事者だけで取り交わした私文書ではありません。同じ内容の合意でも、簡易裁判所への訴え提起前の和解(民事訴訟法275条1項)や公正証書と、私文書の示談書とでは、不履行時に取れる手段が異なります。

  • 当事者でない者が、報酬を得て示談の交渉や取りまとめを引き受ける形です。弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で一般の法律事件に関して「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすること」を業とすることを禁じています(同条ただし書により、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は除かれます)。資格のない示談交渉の代行業者には依頼しないでください。

作成の流れ

  1. 1

    争点と証拠を整理する

    何についての争いで、相手に何を求めるのか(求められているのか)を書き出し、事故状況の写真、修理見積り、診断書、契約書、やり取りの記録など根拠となる資料を揃えます。保険を使う場合は保険会社の関与と支払の枠を確認します。示談の対象に含めるものと含めないものをこの段階で仕分けておくと、清算条項の書き方が決めやすくなります。

  2. 2

    互いに履行できる条件に落とし込む

    民法695条の和解は、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約する契約です。金額、支払期日、分割の回数、返還や謝罪の方法を、相手が実際に履行できる水準で具体化します。履行可能性を無視した条件は、合意しても不履行と再交渉を招くだけです。分割払いにする場合は、遅延損害金と期限の利益喪失条項をあわせて検討します。

  3. 3

    清算条項の射程を読み直す

    「本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」という一文が、まだ判明していない損害や、この争いと無関係の債権まで含む形になっていないかを読み直します。民法696条は和解の確定効を「争いの目的である権利」について定めており、含めたくない請求があるなら、対象から除外する旨を書面に書き込むかどうかが検討点になります。

  4. 4

    不履行に備えた執行手段を選ぶ

    支払額が大きい場合や分割払いの場合は、私文書のままにするか、債務名義になる形にするかを検討します。民事執行法22条5号の執行証書(債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書)にする方法のほか、民事訴訟法275条1項は「民事上の争いについては、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる」と定めており、この訴え提起前の和解を利用する方法もあります。

  5. 5

    検討時間を置いて締結し、原本を保管する

    その場での署名を求められても、内容を読み、必要なら弁護士に相談する時間を取ることができます。署名の際は、相手方が本人か、代理人であれば委任状などで権限を確認し、作成日を記載して、同じ内容の原本を作成し各当事者が保管します。振込先や、添付資料(事故状況の図面・見積りなど)と本文の対応も、締結前に最終確認します。

専門家に相談したほうがよい場面

人身事故や後遺障害が関係する示談、労働問題、消費者被害、刑事事件に関連する被害弁償、金額が大きい案件、相手に既に代理人が付いている案件では、条件の交渉や署名の前に必ず弁護士に相談してください。後遺障害の等級や過失割合が固まる前の示談は、後から判明した損害を清算条項が飲み込むかどうかという難しい問題を残します。当サイトは資格者を擁さず、示談の交渉も、書面の作成代行も、個別事案の法的判断も行いません。弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で一般の法律事件に関して和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることは、弁護士法72条により禁じられています(同条ただし書により、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は除かれます)。

よくある質問

示談書に署名すれば、裁判で和解したのと同じ効力がありますか。
同じではありません。民事訴訟法267条1項は「裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は、確定判決と同一の効力を有する」と定めており、確定判決と同一の効力をもつのは裁判所の手続を経た和解の記録です。当事者だけで取り交わした私文書の示談書は、和解契約の証拠にはなりますが、それ自体が確定判決と同一の効力をもつものではありません。
相手が支払わないとき、示談書があればすぐに差押えできますか。
できるとは限りません。民事執行法22条は「強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う」と定めており、私文書の示談書は債務名義に含まれません。不払いに備えるなら、同条5号の執行証書、すなわち「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載され、又は記録されているもの(以下「執行証書」という。)」にしておく方法や、簡易裁判所の訴え提起前の和解(民事訴訟法275条1項)を利用する方法を、締結前に検討することになります。
清算条項は広く書くほど安全ですか。
支払う側には広いほうが安心でも、受け取る側には逆に働きます。民法696条は「当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする」と定めており、いったん和解の対象にした権利は、反対の証拠が後から出ても覆らないのが原則です。対象の事件・期間・請求項目を特定し、まだ判明していない損害の扱いを決めてから署名してください。
口頭で示談がまとまりました。書面を作らなくても有効ですか。
合意自体は口頭でも成立します。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、和解契約に特別の方式の定めはありません。ただし、どの争いを、いくらで、どの範囲まで解決したのかは、書面がなければ後から証明できず、争いの蒸し返しを防ぐという示談の目的が果たせません。金額と清算範囲を確認できる書面を作成しておくことをおすすめします。
署名してしまった示談書を、後から取り消すことはできますか。
民法96条1項は「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」と定めており、だまされて、または脅されて署名した場合の取消しの主張は制度上あります。ただし、詐欺や強迫があったことは取消しを主張する側が根拠をもって示す必要があり、容易ではありません。署名に至った経緯の評価は個別の判断になるため、心当たりがある場合は速やかに弁護士に相談してください。

出典

最終確認日: 2026-08-12

同じ分類のガイド(債権・回収

本ページは一般的な情報提供であり、個別の事案についての法律判断ではありません。ソロイは書類作成の受託を行うものではなく、記載内容の正確性について 保証するものでもありません。実際の作成・運用にあたっては、出典の原文をご確認いただくか、 弁護士など有資格の専門家にご相談ください。