肖像・撮影同意書

撮影同意書、肖像権同意書、写真撮影同意書、肖像権使用許諾書、撮影・掲載同意書、モデルリリース とも呼ばれます。

肖像・撮影同意書は、人物を撮影し、その写真や動画を使うことについて、写された本人からあらかじめ承諾をもらうための書面です。肖像権を正面から定めた条文は日本の法律になく、最高裁の判例によって、みだりに容ぼう等を撮影されない人格的利益、撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益として保護されています。そのため同意書は、法律が作成を義務づけた書類ではなく、後から「そこまでは聞いていない」と言われないための証拠として働きます。

最終確認日:

どんなときに必要か

社員やスタッフの顔写真を採用サイトや会社案内に載せるとき、イベントやセミナーの様子を撮影してSNS・広報誌で公開するとき、お客様の体験談やインタビューを写真つきで掲載するとき、施術前後の写真や導入事例を紹介するときなど、人が写ったものを社外に出す場面が対象です。撮る側と写される側が社内の関係であっても、退職や契約終了のあとに掲載を続けてよいかが問題になるため、範囲を書面にしておく実益があります。

書面にする必要はあるか

法定の書面要件はなく、証拠目的の書面です。民法522条2項は「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、肖像の利用に特別の定めを置いた法律もありません。ただし、事業として個人情報のデータベースを扱う会社が、同意書に本人の氏名などを書いてもらう場合は、個人情報保護法21条2項により、あらかじめ利用目的を本人に明示することが求められます(人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合や、同条4項各号に当たる場合を除きます)。

必ず入れる事項

  • 被写体の氏名と、撮影の日・場所

    誰のどの撮影についての同意かが特定できないと、別の機会に撮った写真まで対象だったのかが争いになります。同意の射程を後から確定できる形にしておくための、最低限の記載です。

  • 撮影するものの種類(静止画・動画・音声)

    写真の同意しか取っていないのに動画やインタビュー音声まで公開すると、同意の範囲を超えたと主張される余地が残ります。声だけ、後ろ姿だけの利用を含めるかも、ここで書き分けます。

  • 具体的に書いた利用目的の欄

    個人情報保護法17条1項は、個人情報取扱事業者は利用目的をできる限り特定しなければならないと定めています。「広報のため」の一語では、どこまで使ってよいかを本人も会社も後から判断できません。

  • 使う媒体・地域・掲載期間

    自社サイトだけの想定で得た同意で駅貼りポスターや動画広告に転用すると、範囲外と評価されうるためです。期間を書かないと、いつまで掲載してよいかを本人と会社で共有できません。

  • 加工・トリミング・合成の可否

    切り抜きや色調整までは想定していても、他人の画像との合成や生成AIの学習素材への提供まで含むかは別の話です。可否を書き分けておかないと、加工後の公開で争いになりやすい部分です。

  • 第三者への提供・再許諾の可否

    取引先や広告代理店に写真を渡す予定があるなら明記します。個人情報保護法27条1項は、原則としてあらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めています。

  • 対価(謝礼)の有無と金額

    無償か有償かを書かないと、後から使用料を請求されたときに合意内容を示せません。広告や商品パッケージに使う予定があるなら、その利用まで含めた条件かどうかを明示しておく必要があります。

  • 同意を撤回したいときの申出先と手順

    撤回の定めがないと、削除の求めが来たときに社内で判断できず対応が遅れます。すでに印刷・配布した媒体をどう扱うかまで書いておくと、対応できる範囲を本人と先に共有できます。

  • 未成年者の場合の法定代理人の同意欄

    民法5条1項は、未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意を得なければならない(ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない)と定め、2項はこれに反する法律行為は取り消すことができるとしています。本人の署名だけでは足りない場面があります。

無効・効力が否定されやすい条項

古い雛形をそのまま使うと、次の点でつまずくことがあります。

  • 「撮影に同意します」だけの雛形。最高裁第一小法廷 平成17年11月10日判決は、みだりに容ぼう等を撮影されない人格的利益と、その写真をみだりに公表されない人格的利益を分け、撮影が違法と評価される場合には公表も違法性を有するとしています。ピンク・レディー事件(最高裁第一小法廷 平成24年2月2日判決)でも、承諾を得た撮影と雑誌掲載への承諾は別に認定されました(掲載自体は不法行為法上違法とはいえないと判断)。撮影と公表・利用は書き分けます。

  • 「あらゆる媒体で永久に無償で自由に利用できる」型の包括同意。利用目的を特定していないため、個人情報保護法17条1項が求める「できる限り特定」に応えられず、18条1項がいう利用目的の達成に必要な範囲も画定できません。範囲が書かれていない同意は、後から「そこまでは同意していない」と主張される余地を残します。

  • 「同意は撤回できない」「撤回後も制作済みの媒体は使い続ける」とだけ書いた雛形と、撤回に触れない雛形。肖像の同意の撤回を正面から定めた条文はなく、条項どおり通るとは限りません。保有個人データとして管理していれば、本人は個人情報保護法35条5項により、利用する必要がなくなったときや権利又は正当な利益が害されるおそれがあるときは利用停止等を請求でき、事業者は理由が判明すれば遅滞なく応じる義務を負います(同条6項。代替措置の例外あり)。

  • 利用範囲に書かず広告へ転用する。ピンク・レディー事件(最高裁第一小法廷 平成24年2月2日判決)は、肖像等を無断で使用する行為につき、独立の鑑賞の対象となる商品等への使用、差別化目的での使用、広告としての使用など、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権の侵害として不法行為法上違法になるとしています。前提は顧客吸引力のある肖像等の無断使用で、書いていない利用は範囲外だと主張されえます。

  • 未成年者本人の署名だけで済ませている。民法5条2項は、法定代理人の同意を得ずにした未成年者の法律行為は取り消すことができると定めています。学校行事や子ども向けイベントの撮影で本人の署名しか取っていない雛形は、後から取消しを主張される余地を残します。

  • 撮影者の著作権まで、この同意書で処理したつもりになっている。著作権法2条1項2号は著作者を「著作物を創作する者」とし、17条1項は著作者が著作権を享有すると定めます。写真の権利はまず撮影した側にあり、被写体の同意とは別に処理が必要です。61条2項により譲渡契約で27条・28条の権利を特掲しないとこれらは譲渡人に留保されたと推定され、59条により著作者人格権は譲渡できません。

作成の流れ

  1. 1

    使う場面を先に洗い出す

    同意書を書き始める前に、その写真や動画をどこで使うのかを列挙します。自社サイト、採用パンフレット、SNS、プレスリリース、展示会のブース、営業資料など、想定しうる出口を並べておくと、あとで「書いていなかった媒体に使った」という食い違いを避けられます。将来使うかもしれない媒体も、この段階で候補に入れておきます。

  2. 2

    利用目的を文章にして特定する

    個人情報保護法17条1項は、個人情報を取り扱うにあたって利用目的をできる限り特定しなければならないと定めています。「広報活動のため」ではなく、「当社の採用サイトおよび会社案内における社員紹介のため」のように、読んだ本人が使われ方を思い描ける粒度まで具体化します。媒体・地域・期間・二次利用の可否も、この目的の枠と揃えます。

  3. 3

    写る人の属性と、写り込みを確認する

    未成年者が含まれるなら、民法5条1項が、未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意を得なければならない(ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない)と定めているため、法定代理人の同意欄を設けておくのが安全だとされています。従業員なら退職後の扱い、取引先の担当者なら異動・退職後の扱いを決めます。会場での撮影では、同意を取っていない第三者が背景に写り込むことがあるため、撮影範囲の告知や立ち位置の設計もあわせて考えます。

  4. 4

    同意を取り、控えを渡して保管する

    署名または記名押印をもらい、本人にも同じ内容の控えを渡します。同意書に氏名などを直接書いてもらう場合、事業として個人情報のデータベースを扱う会社には、個人情報保護法21条2項により、あらかじめ利用目的を本人に明示することが求められます(緊急に必要がある場合や同条4項各号に当たる場合を除きます)。同意書自体も個人情報なので、保管場所と閲覧できる人を決めておきます。

  5. 5

    撤回・削除の求めに応じる手順を決める

    誰が受け付け、どこまで対応するかを事前に決めます。ウェブ掲載は差し替えできても、印刷済みの冊子や配布済みの動画は回収できないことがあるため、その線引きを同意書と社内手順の両方に書いておきます。対応の記録を残しておくと、後から経緯を説明できます。

  6. 6

    公表の直前に、同意の範囲と突き合わせる

    実際に掲載する媒体・期間・加工の有無が、もらった同意の範囲に収まっているかを、公開する前に確認します。使い回しのときほどずれが起きやすく、当初は社内資料用だった写真が採用サイトに回るといった形で範囲外の利用が生まれます。範囲外なら、あらためて同意を取り直します。

専門家に相談したほうがよい場面

当サイトは資格者を擁しておらず、書類の作成代行や個別事案の判断は行いません。次のような場面は、署名や公開の前に弁護士へご相談ください。公開した写真の削除を求められて話し合いが折り合わない、退職した社員から採用サイトの写真の削除と損害賠償を求められている、SNSで転載され拡散してしまった、広告や商品パッケージなど顧客吸引力の利用にあたりうる使い方をする、未成年者について親権者の間で意見が分かれている、といった場合です。

よくある質問

口頭で「撮っていいですよ」と言われていれば足りますか。
法律上、書面にしなければ効力を生じないという定めはありません。民法522条2項は、契約の成立には法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないと定めています。もっとも口頭では、どの媒体で、いつまで、どう使ってよいと言われたのかを後から示せません。撮影への承諾と公表・利用への承諾は別の事実として争われるため、範囲を書いた書面を残す意味はそこにあります。
会場の入口に「撮影して広報に使います」と掲示すれば、同意を取ったことになりますか。
掲示は、写される人に利用目的を伝える手段としては意味があります。ただし、一人ひとりがその内容を認識して受け入れたといえるかは、掲示の見やすさや撮影のされ方によって変わり、一律には言えません。顔がはっきり写り、その人が主役として扱われる写真ほど、個別に同意を取っておくのが安全だとされています。掲示だけで足りるかどうかは個別事案の評価になるため、断定はできません。
一度もらった同意は、あとから撤回できますか。
肖像の同意は本人の人格的利益に関わるため、撤回できる場面がありうると考えられています。ただし、どのような場合にどこまで撤回できるかを正面から定めた条文はなく、すでに印刷・配布したものの扱いも含めて個別事情の判断になります。だからこそ同意書の側で、撤回の申出先、対応する範囲、対応できない媒体をあらかじめ書いておくことが実務上の要になります。
顔写真は個人情報保護法の「個人識別符号」にあたりますか。
顔写真そのものが個人識別符号になるわけではありません。同法2条2項の個人識別符号は政令で定めるものに限られ、同法施行令1条1号は、同号ロの「顔の骨格及び皮膚の色並びに目、鼻、口その他の顔の部位の位置及び形状によって定まる容貌」などを電子計算機の用に供するために変換した符号であって、特定の個人を識別するに足りるものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合するもの、と定めています。つまり顔認証用に変換されたデータが対象です。他方、誰が写っているか分かる写真は、法2条1項1号の「記述等により特定の個人を識別することができるもの」として個人情報にあたります。

出典

最終確認日: 2026-08-07

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